第四章 遺 志

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 クラヴィスは知っていた。その空間……宇宙を。聖地よりの力とされるサクリアによって定期的に襲ってくる“悪夢”の中で、いつも自分が放り出される場所とよく似ていたのだ。例えば暖かな日差しやそよぐ風、木々の枝に遊ぶ小鳥のさえずり……そういったものを求めるならば、そこは虚無と言ってよいほどの何も無い処。ただその闇に似た空間の中に漂う何かの気配だけは、時に雑多なほど賑やかだった。何がどう……と言葉で言い表せないその場所こそが、“全てのものを包括する処、宇宙……なのか?”と 、シャーレンの見せたものから目覚めた時にクラヴィスは、まずそう思った。
“彼の見せてくれた宇宙の後半部分は、打ち上げ花火のごとく華やかなものだったな……。数々の銀河……その中のほんのひとつの星が人の住む世界なのだな……”
 クラヴィスは、ゆっくりと戻ってくる自意識の中で、幾つもの渦状星雲の様を思い描く。そんな彼の横で、リュミエールが、はらはらと涙を溢していた。
 今、見てきたものに、彼の感受性が打ち震えたのだった。それは涙こそ流してはいないが、他の者たちも同様だった。

「子どもの頃、モンメイ城とその周り以外には何も無いのだと思っていたことがある。少し大きくなって、自分が城から出して貰えないだけで、本当は他にも国があるのだと知ったけれど……。ジュリアスに連れられて、モンメイの国境を越えクゥアンへ。そして、大海を経て西の大陸へ……。そこで世界はもう終わりだと思っていたけれど 、全ての世界はなんて広いんだろうね」
 オリヴィエは、溜息混じりに小さく笑った。
「我々が、あるひとつの星系内に属するごく小さな星の上に住む者……だということは判った、聖地がひとつの宇宙の礎だということも」
 ジュリアスは、今見たことの感動を胸中にのみ押し留めて努めて冷静に言った。
「私たちの住む星を外から見たかったですねぇ。あー、それとも今見たものの中にあったんでしょうか?」
 ルヴァの方は、興奮を隠さず問いかける。だが、聖地側の者たちは誰もジュリアスやルヴァの言葉に頷かず答えないでいる。
「それが、そうでもないんだよ……ねぇ」
 例によってシャーレンが、肩透かしを食らわすような口調でボソリと言った。
「お前たちが理解したように、人々の住む所は惑星上にある。大抵は、な。だが、例外がある」
 ノクロワの言葉に、ルヴァは、さっそく今し方の記憶の中を探り出す。
「それは人工的に創られた所のことですね? 惑星の軌道上に造られたコロニーだとか、ええっと、すていしょん……とか言いましたか……ね?  私の心にそういう名称が入ってきたんですけれども?」
「さすが地のサクリアの片鱗を持つだけあって物覚えも良いようだな。確かにそうだが、もっと別のものがある」
「聖地……じゃないのか……な?」
 と言ったのはオスカーだった。皆の視線が一斉に彼に集まった。
「あ……いや、すまない。なんとなくそう思ったので。さっき見たものの中に聖地が出てこなかったから……さ」
 オスカーは、思いつきでそう言ってしまったことに決まり悪そうに頭を掻いたが、シャーレンは、「その通りだよ。僕は聖地を見せなかった。聖地は、この宇宙の中の例外だからね。それと、飛空都市もね」と頷いた。
「あまたの星々と同じものなら、その身にサクリアを持つ者しか見られないのは不可解なことですよね……。それに……夜空に輝く聖地は、今し方見たものからの知識によると、燃えさかる太陽と同類のものということになりますが、そこは灼熱の地ですから生きる者の住める場所ではないですし……。それに、飛空都市とは一体……?」
 リュミエールは、涙を拭いながら言った。シャーレンはその問いかけに誰が答えるの? というようにセレスタイトとノクロワを見た。
 

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