第二章 再 会

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 日の出とともに鐘が打ち鳴らされる。いつもより数倍、派手にカンカンとけたたましく。風向きが変わったことは、たちまちのうちに船内中に伝えられ、皆は歓喜の声を挙げて、それぞれの持ち場に着く。水夫たちは、補修の終 わった帆布を、いち早く支柱に張ろうと懸命になっている。誰の口からともなく歌が出始める。インディラ港付近ではお馴染みの舟歌だ。
 第一騎士団の者たちは、船の補修に精を出している。口をついて出るのは、クゥアンに古くから伝わる出陣の時の歌。いざ進め……を延々と繰り返すだけのような単純な歌詞だが、タンタンと小気味よいリズムに乗って仕事がはかどっていく。吹いてくる風はまだ弱い。だが、ゆっくりとではあるが、船は確実に北へと進んでいる。

「ジュリアス様、これを見て戴けますか?」
 航海士長が、計算に秀でた若い部下を連れて、ジュリアスのいる所にやってきた。手には大きな海図を持っている。彼らはジュリアスの足元に海図を拡げると、四方に石を置いた。ジュリアスが、座り込むと航海士たちは説明し始めた。
「例の魔の海と呼ばれる海域がこの辺りです……」
 航海士長は、地図の中程一帯を指し示す。
「風が強くなって、西南に流され続けました。この者の計算によると現在地は……誤差があるにせよ、この辺りかと……」
 航海士長が示した場所は、当初の予測よりも、随分南下した地点である。
「もし、このまま天候も良く、順調に風が吹いたとして、おおよそ六日ほどの後、ここへ……」
 北方の何も描かれていない場所に、航海士長は指先を置いた。だが、海図の右手に目をやればそこには大山脈が描かれている。もし山脈の続きで大陸が西にも存在するとしたら、その空白の部分には陸地が描かれるはずである。その沿岸に達するのが、最良の場合、五日の後ということだった。
「うむ……」
 ジュリアスは何かを考え込むように小さく頷いただけで険しい表情を崩さない。五日の後、辿り着いた場所に何があるのか、あるいは何も無いのか、それを思うと容易に喜びの声を上げるのも躊躇われるのだった。そんなジュリアスの固い表情を、若い航海士は不安そうに見ていた。
「魑魅魍魎が住む処とさえいわれた西域です。はたして常識通りの計算や思惑が通じるものかどうか……。あまりにも楽観的な計算、申し訳ありませんでしたっ」
 ジュリアスは自分の表情が、彼に謝らせたのだとすぐに感じ、「いや、少なくとも魑魅魍魎などはおらぬ……と私は思う。そなたの計算のおかげでようやく先が見えた。ありがとう」と言って、ようやく笑顔を見せた。
「そっ、そんな勿体のうございます。わ、私の拙い計算など正しいものかどうか……」
 航海士は顔を赤らめ慌てて頭を下げる。航海士長は、“よかったな”とばかりに彼の肩を叩いた。
「不安はある。だが、風は変わった。今を喜ぼう」
 立ち上がったジュリアスの頬を心地よい風が掠めていく。

 

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