3.ルヴァ

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 中央砂漠の中継地点、小さな三日月の形をした湖を抱くオアシスの村外れ。砂の上に小さな敷物を広げて座り込み、ルヴァは、サンドラという荷馬車を待っている。故郷を出て三日、ダダス国の都タスクへ向かう交通の便は、サンドラと呼ばれる六頭からなる砂漠馬に牽かせた定期便の荷馬車だけだった。やがてギシッギシッと砂を踏む音が遠くから聞こえ、ルヴァは書物から目を離して立ち上がり、大きく手を振った。
「待たせたみたいだな、荷積みに手間取ってな。タスクに行きたいのか? 見かけん顔だな? どこのモンだ?」
 サンドラの御者は、古ぼけた粗末な革鞄を抱えた少年に尋ねた。
「ルダの者です。サンドラを乗り継いでここまで来ました。ダダスの大学に行くんです」
「ルダ国からの留学生か。時期はずれだから奨学金を貰っての編入かな? 優秀なんだな。さあ、乗った乗った」
「あ、あの……運賃はいくらですか? 都までは払えないかも知れません……」
 ルヴァは心の中で所持金を数えた。村を出る時に持参した金は片道ぎりぎりの金額だった。季節や砂嵐の状態、または御者によって、値段の差があるサンドラ便は、乗る前にきちんと値段を決めておかないと後で揉める元になると聞かされていた彼は、祈るような気持ちでそう尋ねた。
「ふうん……ダダスの都に行くまでの間に、もう一カ所、村を通るんだ。そこで荷の積み下ろしを手伝ってくれるなら、運賃は無しってことにしてやってもいいぜ、ぼうず」
「ほ、本当ですかッ」
「ああ。但し、出世したら倍にして返しに来いよ」
「はい、きっと倍にしてお返しします」
「はは、威勢がいい。早く乗れ、そこの木箱と木箱の間にでも座るといい」
 ルヴァは、慌てて荷台に飛び乗った。言われた通りの位置に座ると、鞄から書物を取り出す。
「おいおい、この先は、結構揺れるぜ、本なんか読んだら酔っちまうかも知れねぇぜ」
「大学に着いたらすぐに試験があるんです。特待生になれれば、寮費も負担して貰えるんです。もし特待生になれなかったら……。すぐに戻らなければなりません……」
「切羽詰まってるんだな……ルダ国のどこの出身だ?」
「東南部のサンツ渓谷にある村です」
「東南部か。あのあたりも砂漠化が進んでんのか? 俺も元々は南部の出でな、村はとっくに砂漠に飲み込まれ、大方の者が北部に移転した。俺は、サンドラの仕事があるんで 、この村に引っ越したんだがな」
「まだサンツ渓谷のあたりはマシだと思います……」
「そうか……、そんじゃ、ま、出発しようか」
 御者はそう言うと、砂漠馬のふさふさとした毛に覆われた尻に鞭を打った。
 のそり、のそりと歩き出した馬は、やがて六頭が歩調を合わせだし、砂の大地を力強く駆けていく。御者が言った通り、荷台は結構揺れ、書物を直視できる状態ではなくなった。ルヴァは仕方なくそれ以上、本を読むのを諦めて、目を閉じた。父や母、幼い兄弟たち、それに村の人々の姿が目に浮かんだ。背後に広がる砂漠から逃れるように人々は、山間の谷間に村を作った。そこに点在する村々は貧しいながらも付近の鉱物を発掘する権利を持ち、なんとか生きてきた。どこの村でもより多くの発掘権を手に入れたいと思っていて、五年に一度ある発掘権の抽選に望みを賭けている。だが、隣国ダダスにある古い歴史を持つ大学で特待生となり 卒業すれば、無条件で故郷の中央政府庁に入る道が約束され、成功者を出したということで、サンツ渓谷の貧しい故郷の村には、付近の鉱山の発掘権を優先的に得られることになる。
“ただ特待生になるだけじゃだめなんです……今、村が持っている発掘権は、期限が後二年で切れる。最短の二年で全ての単位を取り終えて卒業しないと……”
 その細い体に、村全体の運命を抱え込んでルヴァは、新しい世界に向かって歩こうとしていた。
 

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