第七章 光の道、遙かなる処

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 スモーキーの言葉に、クラヴィスとリュミエールは黙り込んだ。ルヴァも、話を逸らすための良い言葉の見つからぬままに、リュミエールの傍らで息を潜めているのがやっとだった。
「ルダの文官ルヴァの従者……。どこまでが本当だか? 出逢った時から、ずっとおかしいとは思っていた。その所作は身分の低い者のそれじゃないし、薄汚れちゃいるが着ているものも町で簡単に買えるような代物じゃない。それに何より、ルヴァは、従者であるはずのお前をいつも気に掛けていた……」
 スモーキーは、クラヴィスに話し出した時と同じ様な、静かな物言いでそう言った。
「誰に対しても興味本位で、人の過去を詮索するような事はするべきじゃないと思ってきたが、クラヴィスもリュミエールも、何か事情があるんならハッキリさせた上で、これからどうするか決めたほうがいいと思ってな。教皇庁に行けばきっと今より良い方向に道は開ける、俺はそう信じて、お前たちに同行を頼んだ。その気持ちは今も同じだけどな」
「これからの道中のことを改めて考える?」
 ルヴァが、そう聞くとスモーキーは頷いた。
「クラヴィスは、採掘現場から逃げた身だが、ルヴァとリュミエールは、鉱山とは無関係だ。俺たちと同行しているが故に危険がつきまとう。それならいっそもう別行動をとった方がいいかと思ってな。最初は、スイズの密偵じゃないかと疑っていたこともあったし、道中、書類作成の手伝いが欲しかったから、同行して貰ったが、悪い連中じゃないことは判ったからな」
「無関係じゃありませんよ。私は故郷を失っているんです。貴方たちを消すために仕組まれたことで! それに……い、いえ、なんでもありません」
 思わず言葉を発したルヴァだったか、最後の方は、慌てて口を噤んだ。
「ほら、そんな風に何かを隠すように黙り込む!」
 スモーキーは、苛ついた声で言った。そして、彼にしては珍しく項垂れた。ただでさえこの道中の疲れが溜まり、食料も尽き果てているところに、昼間、連れ去られた年寄りの鉱夫の事で、気持ちも体力も落ち込んでいるのだ。はたして無事に教皇庁に辿り着けるのか? スモーキーは、心の中で何度も自問し、だんだんと自信が持てなくなってしまっていた。
「すまん、怒鳴って悪かった……。なあ、俺の昔の事を話すよ。なんで俺が鉱山で働くようになったか。おあいこということで、お前たちも自分の事を話してくれないか?」
 スモーキーは、リュミエールとクラヴィスが、貴族層の出であると思っていた。何かの事情で、身分を捨てたか隠しているかだと。それならば、かって貴族階級であった自分と、何かしらの共通点を見つけ、彼らも自分のことを話しやすくなるのではないか、と思ったのだった。
 スモーキーは、クラヴィスとリュミエールを交互に見た。そして、彼らが、戸惑いながらも僅かに小さく頷いたのを確かめると、一息ついて、話し出した。

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