第六章 帰路、確かに在る印

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「まず俺たちのことを明かしておこう。俺たちは、ご覧の通りの鉱夫だ。スイズとダダに挟まれた教皇庁管轄の鉱山のな」
 だが、スモーキーの言ったことをルヴァは訝しんだ。
「管轄地で働く方たちが、何故、ルダへ? ここはルダの鉱山ですよ。この付近の採掘の管理は、私の村がしているはず」
「古い現場はその通りだが、少し前に、この辺りで新しい鉱脈が発見されたんだよ。上からの指示があって、助っ人としてやって来たんだ。新しく採掘現場を作るとなると、兼業農家の村人の力だけじゃ心許ない。俺たちみたいな 専門の山師が、地盤を固めてやるわけよ。ああ……申し遅れたな、俺は、束ね役の……まあ、一応、スモーキーって呼ばれてる」
「一応……ですか?」
「正式な名は別にあるってことさ。 けど、本名以外の名を名乗ったなら、それで呼んでやるのが俺たち鉱夫のルールなんだ。鉱山にいるのは、まっとうに出稼ぎに来ている者だけじゃないからな。後ろ暗い所のあるヤツもいるってことだ。あんたたちは俺たちの仲間じゃないが、スモーキーと いうことで俺のことは認識しといてくれないか? あんたたちは……そっちの兄さんは、ルヴァって言ったな……、あんたは?」
 スモーキーは、リュミエールを見て言った。
「私は、リュミエール。ルヴァ様の従者です」
 リュミエールが、そう言うと、スモーキーは、それを確認するように彼をじっと見た。
「見たところ、あんたはルダ人というよりは、スイズ人っぽい感じだが?」
 リュミエールの髪の色や長さは、スイズ人の貴族の特徴と一致する。
「ええ……。一応は、スイズの出身です」
「坊ちゃんも、一応か。ルダの文官に、スイズ人の従者ねえ……まあ、いい。通りすがりの仲だ、詳しいことは聞くまいよ」
 スモーキーは、クスッと笑った。そう言われたリュミエールは、不満ありげに押し黙ってしまった。ルヴァは、そんなことにかまう余裕もなく、「それで、貴方たちは、鉱山で働いていたんですよね、村がこんなになってしまった理由は、やはり先のスイズとダダスの戦いのせいなんですか?」と、話の先を促すべくそう問うた。

「俺たちが、こっちの鉱山に着いて間もない頃、少し東の方でスイズとダダスの諍いがあった。ダダス軍が優位になって、スイズ軍を押し返す形で、サンツ渓谷の入り口あたりまで戦いの場が移動し、それとともに戦いは激化していった」
「そこらあたりのことは、ルダ王城に報告が来ていました。その後は?」
「戦いは互角だと聞いていたが、スイズ軍のうち二割ほどの兵が、こっちの……つまりあんたの故郷の村あたりまで撤退してきたんだ。ちょうどあの、月の涙とかいう池と村の中間あたりに野営していたようだった。負傷兵の避難と物資の補給が目的だろうと思ってたんだ」
「思っていた……?」
 ルヴァは、スモーキーの言い方に引っかかりを覚えて尋ねた。
「ある晩、スイズ兵が、俺たちのいる坑口付近を嗅ぎ回っている所を見たものがいたんだ。何かを埋めていたんだとよ」
「何故、そんなところに? 何を埋めていたと?」
 ルヴァとリュミエールは互いに顔を見合わせた。
「全部を掘り返して確かめる時間はなかったが、爆薬だった。スイズとダダスが、ルダ国内で戦う以上、取り決めでは、ルダの民や村への被害は極力避けることになってるはずだよな。それなのに何故、爆薬なんかを仕込んで、被害が大きくなるような細工を? とは思ったさ。考えた末、ひとつの嫌な結果に辿り着いた俺は、とりあえず仲間を引き連れて、一旦、採掘現場から離れ て避難した。それから間もなく……大砲の音が響いた……」
 スモーキーは、ふうっと息を吐いた。彼の後にいた大男が、スモーキーに代わって話し出した。

「今は、怪我をして、あっちの坑穴で養生している男から聞いた話だが、ソイツは、その日、避難が遅れて、まだ村の近くにいたんだ。村のすぐ近くで戦いが始まりだし、村人は慌てて山の方に避難を始めてた そうだ。村から一番近い坑穴に逃げ込もうとしていたらしい。ソイツは、俺たち仲間の後を追って、もっと西へと向かった。そうでなかったら、助からなかったぜ。月の涙の近く、小高くなった所から、戦いの様子が見えたという。スイズは、大砲が三台あって、兵もダダスより多かった。どう見てもスイズ優勢で、戦いはすぐに終わるだろうなと思ったんだとよ。けどな、大砲のひとつが、タダス軍ではなくて、山の方を向いてることに気づいたんだ。おかしいな……と思った瞬間、そのスイズの大砲 が、火を噴いたんだとよ」
「どういうことです? どうも話が判りませんが?」
 ルヴァとリュミエールは、首を傾げた。
「つまりな。スイズ軍が消してしまいたかったのは、ダダス軍だけではなくて、山側にいた者たち……この俺たち、ってことさ」
 スモーキーは、吐き捨てるように言った。そう言われてもますます合点がいかない……とばかりにルヴァは首を振った。
「何故、鉱夫の貴方達を……?」
「話の先は長い。もう少し我慢強く聞いてくれよ………」
 スモーキーは、そう言った後、自分を見つめているルヴァを、見返した。

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