第六章 帰路、確かに在る印

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  鳥のさえずりが遠くで聞こえた気がした。やっと朝がやって来た……、リュミエールは、目をゆっくりと開けた。荒れた風景が、そのまま飛び込んで来る。 昨日の事はやはり夢ではなかったんだ……と思うと、リュミエールは、自分の横にいるはずの彼の姿を探した。
“ルヴァ様は?!”
 やや離れた所にルヴァは座っていた。ぼんやりと……。
「ルヴァ様、おはようございます……」
「ええ……」
 リュミエールの挨拶にもルヴァは、短くそう答えただけで、何をするでもなく遠くを見つめている。
「あの……。一旦、サンツ渓谷の入り口の村に戻りませんか? 何かを知っている人がいるかも知れません。それから、出直して、この辺りをもう一度、捜索してはいかがでしょうか?」
 リュミエールはそう言って、ルヴァの反応を待った。
「ああ……。ええ、ええ、そうですね……そうしましょう」
 気のない返事だった。それでもリュミエールは、ルヴァが立ち上がってくれたことが嬉しかった。ルヴァの背中を支えるようにして、リュミエールは、月の涙を離れ、今は跡形もない村へと続く土砂で埋まった道を行こうとした時、背後から足音が聞こえた。ハッとして振り向いた二人の視線に飛び込んできたのは、薄汚れた上着を着た二人組の男たちだった。さほど若くはない働き盛りの男たちだ。手に潰れかけた木桶と歪んだ鉄鍋をそれぞれ持っている。水でも汲みに来た風情だった。彼らも、リュミエールとルヴァを見つけて立ち止まった。
「あ……、あの……」
 互いに顔を見合わせた後の沈黙を破ったのは、リュミエールだった。
「いきなり失礼致します。この辺りの……この状況について何かご存じありませんか?」
 リュミエールの丁寧な物言いに、男たちは、一瞬戸惑ったような顔をし、体格の良い大男の方が、口を開いた。
「あんたたちは? こんな所に何用なんだい?」
「私たちは、ルダ王都から来ました。こちらは、南部の状況を視察している文官様で、私はそのお付きの者です」
 リュミエールは、ルヴァと自分をそう紹介した。
「ルダの文官……。どうする?」
 男は、リュミエールたちに答えるより先に、連れにそう問いかけた。
「身なりも悪くないし、嘘じゃなさそうだが……」
「……に逢わせた方がいいんじゃないのか? もしも……ということがある」
 二人は、小声で囁き、頷き合った。
「兄さんたち、悪いが少しご足労願うぜ」
 大男が、リュミエールとルヴァの行く手を塞ぐような位置に回り、自分たちの来た方向へと顎をしゃくり、ルヴァの背中を軽く押した。
「貴方たちは一体、誰なんですか? どこに私たちを連れて行こうと言うのです?」
 それまで黙っていたルヴァは、抵抗しそう言った。
「俺たちにはリーダーがいる。今はそいつの指示に従って動いてるんだ。ともかく、あんたたちが、潔白だとそいつが認めれば放してやるから。危害を加えたりしねえよ」
 もう一人の男はそう言い、二人に付いてくるように促す。
「潔白? 何が潔白なんです? 私たちが何をしたって言うんですか!」
 リュミエールは、男たちを精一杯睨み付けた。
「事情は、後からだ。俺たちだって、今、大変なんだよ! グダグダ言わずに付いて来こい!」
 大男は、声を荒げてそう言うと、ルヴァとリュミエールの背中を押した。二人は、仕方なく、男たちの言うままに、歩きだした。

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