第五章 月の涙、枯れ果てて

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 ルダの都周辺のみならず、国内の主要な町や場所には、スイズからの武官が駐在するようになっていった。リュミエール王子の警護の為に……と。その動きはリュミエールの耳にも届いている。
「館の周りの警護はさほどではないのに、ルダ国内の各地に小隊が送り込まれています……。わたくしを守るために、ダダスからの奇襲に備える……と」
 リュミエールは、眉を潜めて怒りのこもった声でそうルヴァに言った。
「ルダに留学中の王子に何かあってはという配慮……なのでしょう」
 ルヴァは、そう答えるしかなかった。
「それならば、わたくしをすぐに帰国させれば済むことです。別にどうあってもルダ音楽院に留まりたいと言っているわけではありません。わたくしがルダにいる限り、ダダス側はルダで迂闊な事ができない。それを承知でスイズは、ダダスを挑発するような言動を取っているのです。各地の配置した小隊とダダス側の人たちが小競り合いでも始めてくれれば、一気に戦争に持ち込めると思っているのです。父や兄は……最初からそのつもりだったんです。ですから、わたくしをルダに送り込んだのです。友好関係を築くためと言いながら、 その実、武官を送り込んで。わたくしのいるルダをタダスから守るためと称して……」
 リュミエールはそう言うと、頭を抱え込んでしまった。
「ダダスとスイズの戦いで、荒廃するのはルダの国土ですね……けれど、ルダ政府には自力で復興できるほどの財力も技術力もない。スイズは、復興資金と労働力を確保する代わりに、ルダを自国領とすることを教皇庁に申請するつもりでしょう」
 ルヴァは、もう取り繕うのを止めて淡々とした口調でそう言った。
「ルヴァ様もよく判っていらっしゃる。たぶんルダの王族や執政官、文官の皆さんも判っていらっしゃるのでしょう? それなのに……」
「ですが、ルダ側は何も言えません。スイズにもダダスにも長きに渡って支援を受けています。そうしないともう国としての形を保てないほどに国庫は破綻していますから……文官補佐となって国政に関与するようになってその事がよく判りました。今はただ両国の動きを見守っているだけしかできません 。スイズ、ダダス、どちらか寄りの発言や行動をとった場合、ルダは、一方の国から敵対国として攻撃の対象になります……」
 ルヴァがそういうと、リュミエールは、自分が悪いわけでもないのに、「申し訳ありません……」と小さく呟いて悲しげに俯いた。
「元気を出して下さい、リュミエール。次回の宿題を出しておきましょう。難問ですよ」
 ルヴァはそう言って、代数の問題をリュミエールに手渡した。リュミエールが解くにはまだ少し無理があるかも知れないと思い控えていたものだった。努力家の彼が、あれこれと思い悩む事も忘れて取り組んでくれれば……と思ったのだった。

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