翌朝早く、ルヴァとリュミエールは、隣村を目指した。サンツ渓谷の奥へ入って行く形で道が延びている。ルヴァは、夕べから口数が少なくなっていることもあり、乾いた土と灰色の山肌が、いっそう陰鬱な気分にリュミエールをさせていた。
「大丈夫ですか? もう少し行くと下り道になりますから、そうすればすぐですよ。村の一端も見下ろせますからね」
太陽が真上を過ぎて少し経った頃、だらだと続いていた長い坂の途中でルヴァは、やっとやや明るい声でそう言った。その笑顔がリュミエールは嬉しかった。
「こんなに長く歩いたのは初めてです」
リュミエールは、額に滲む汗を、指先で拭いながら答えた。
「足に豆が出来てしまったのでは?」
「はい。けれど、とうに潰れてしまってます……でも、もう村が見えるんですね!」
リュミエールは、わざと表情を歪めた後、元気よくそう言って、ルヴァを追い抜いて走り出した。この旅の合間、ルヴァは、こうしたリュミエールの行動や表情を時々見るようになっていた。賓客の館にいた頃には見せなかった彼の
まだ子どもっぽい姿に、ルヴァは少し元気づけられて、走り出した彼の後を追った。先に坂の上に辿り着いたリュミエールが手を振っている。その姿に、一旦立ち止まって、ルヴァは
、
「赤い屋根の建物が見えるでしょう。村の集会所なんですよ」と、叫んだ。リュミエールが立っている所に辿り着き、彼の背中に、もう一度、ルヴァは言った。
「ほら、赤い屋根の集会所が、あそこに見え……」
ルヴァが、指さした場所には無かった。何も。
ただ瓦礫と土砂の入り交じったものが、なぎ倒された木々の合間に見えているだけだった。
「こ、これは……、村は……村の皆は……」
ルヴァは呟き、村へと続くはずの坂道を、駆け出した。しかし、その道もしばらく行くと、折れた木によって先を阻まれていた。ルヴァは呆然として山の方を見た。えぐり取られたように山肌が割れて落ちている箇所が幾つもある。それが、スイズとダダスの戦いのせいであるのか、あるいは天災によるものなのかは判らないが、崩れ落ちた土砂が、その麓にあった小さな村を押し流してしまったことは明らかだった。ルヴァは思わず全身の力が抜け、その場に座り込んだ。
「ルヴァ様……」
後から追いついたリュミエールが、声をかけたが、ルヴァは何も言わない。
「そうだ……月の涙、あの池はどうでしょう? 村の水源になっているのなら、そこに皆さんは、避難されているのではないですか?」
リュミエールの言葉に、ようやくルヴァは顔を上げた。
「そうかも知れません。池から少し行ったところに鉱山への入り口があり、出稼ぎの鉱夫たちの寝泊まりしている小屋もあります! 月の涙は、あの崖の向こう側にあります。本当なら半時も歩けば着くのですが……こんなに道が悪くては……。リュミエール、危ないですから貴方は元来た村へと戻って待っていて下さい」
それだけ言うと、ルヴァは、立ち上がり歩き始めた。道とは言えない道を……。
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