第三章 1


  ついにクゥアン軍が侵攻してくる。その知らせは、モンメイの城にもいち早く届いている。 モンメイ王は、作戦会議を終えた後、二人の息子と共に、己の私室で、酒を酌み交わしていた。
「各地に散っていた部隊が、集結すれば勝てる」
 王は自分の二人の息子を交互に見て、彼らに酒の入った杯を自ら手渡し言った。だが、二人の息子のうちの一人……オリヴィエが、それに逆らうように言葉を返した。
「いや……。モンメイは広すぎる。各地の部隊が集結するより早くクゥアンは王都に入ってくるかも。それに……クゥアンの兵力なら、王都襲撃軍とは別に、各部隊をモンメイの点在してる各都市に派遣して潰してしまう気じゃないかな……各部隊は集結する間もなく、既にやられてしまってる可能性の方が高い……」
 その冷静すぎる物言いに、傍らの兄は、激怒した。
「黙れ! 腰抜けが。お前、城から出ていないくせにどうしてクゥアンの兵力のことなど知っている? 大方、後宮出入りの旅商人から、掴まされた噂話だろう?  勝手に憶測して話すなら、もっと良い想像をしろ。我らに不利だと考えるとは、所詮はお前は、生粋のモンメイ人でないからか?」
「うむ……」
 王は二人の息子を見た。自分によく似たモンメイ人特有のがっちりとした体格、黒の髪と目、浅黒く精悍な顔立ちの長男リュホウと、白い肌と金色の髪、青い目をした次男であるオリヴィエと。
「父上、オリヴィエの言うことなど無視なさってください。こんな拾い子の……」
とリュホウは、追い打ちをかけた。その言葉には、何処の者とも知らぬ捨て子を養子にした父に対する非難も含まれていた。
「そう拾い子と言うでない。お前はすぐそう言うが、儂とて考えがあってのこと。見よ、オリヴィエのこの美しい容姿を。赤子の時から、それは輝くばかりであった。オリヴィエの血が混ざれば、このモンメイ王族も後、容姿の優れたものが出てこよう」
 兄と父王の言い合いをオリヴィエは黙って聞いていた。自分が捨て子であったことは、物心ついた頃から知っていた。誰に教えられたわけではないが、容姿の違いからそれは一目瞭然であったから。この大陸にあっては、金の髪を持つものは、天からの使いであり、その者を手元に置き、その者の子を得られれば一族に必ず繁栄をもたらすとされていた。 故にオリヴィエは 、モンメイ王の養子にされ、大切に育てられたのである。

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