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 シン……と静まりかえったその廊下の奧に、観音開きの、朱塗りの扉があった。炎に絡み合う一匹の龍がよく見ると【壱】の形をしている。
 その扉の右横の部屋は金文字で【弐】、左横には【参】と書かれた扉がある。緑はその【参】の扉を開けた。

「オリヴィエ? いるのか?」
 緑は声を掛けながら扉を開けた。簡素……ともいえる簡単な寝台と家具、子どもの部屋にしては、色や玩具が無さ過ぎるといぶかしげに思いつつ、緑は部屋の中を見渡した。

「いない……厠にでも行ったのか?」
 と呟きつつ緑は、壁際に置かれた一客の椅子だけが異様に豪華なのに気づいた。他の家具はどれも中国風の細工が施された色味を押さえたものであるのに対して、その椅子だけが何か、特別な意味があるように美しく、置かれていた。

 木胎に厚く塗り込められた朱の漆、繋ぎ目には金の飾り、背もたれに蓮華とその花に戯れる蝶の木彫り。座部に敷かれた黄色の絹布には少し綿が詰めてあり、金龍、彩雲が絡み合う刺繍が施してある。
 そして何よりも奇異なのは、その椅子が壁に向かって置いてあることだった。
 緑はその椅子に座ろうと、自分の方に向けようとして、壁にごく小さな突起がある事に気づいた。その椅子に座ると丁度、目の高さの位置にある小さな玉……よく見るとその壁に細工がしてあった。小さな突起は壁に仕掛けられた隠し小窓を開ける為の取っ手であった。
「?」
 緑はその椅子に腰掛けて、取っ手を摘む……キィ……と小さな音がして、そこだけ小さく切り取られたように窓が開く。やっと片目で覗けるくらいの小さな窓が……。
「ハッ!」
 緑は、窓の向こうの部屋の様子に息を飲んだ。
 

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