★病室

「なんだとう〜〜」

 とジュリアスはガバッと跳ね起きた。

「あ、いたたたたたたた」

「まだ動いてはいけません、安静になさって下さい」

 オスカーはジュリアスの背中を支えつつ言う。

「女王陛下が懐妊……しかもクラヴィスの子……ああ」

 とジュリアスは頭を抱え込んで、再びベッドに沈んだ。

「まだお腹はそんなに目立ってないようですし、秘密を守ってくれるいい病院を知っていますよ。少し料金が高いんですけどね、人里離れた山の中にあって……」

 オスカーの声は一段低くなる。

「バカモノ〜」

「じゃあ、お許しになるんですね〜、いやぁ、そりゃめでたいな」

「……仕方ないだろう……オスカー、隣の病室のアレに祝いの祝電を打つように。押し花オルゴール付きのヤツだ……いや、ツルカメ金刺繍の方がいいか……」

「ジュリアス様、まだ産まれたわけじゃないんですから、祝いの言葉なら直接仰ればいいではないですか」

「わ、私は歩けぬからな、足に怪我しているのだから……あ、何をするか、オスカー!」

オスカーはジュリアスの背中に手を差し入れると、ヒョィと持ち上げた。

「俺が運んでさしあげますから、直接仰って下さい。今までジュリアス様とクラヴィス様は仲が悪いと思いこんでいた俺が浅はかでしたよ。お二人ともしっかりと手を繋いで倒れられていて、聖地に運び込んでから、やっと指一本づつ、引き離したんですからねっ、そんなに深い仲なら、直接お祝いの言葉を仰って下さい」

 意地悪そうにそう言うとオスカーはジュリアスを抱えあげたまま、隣室に向かう。

「ふ、深い仲などではないっ、あの場合、仕方なく……そ、それにクラヴィスの方から私の手を握ってきたのであって、決して私からではないっ。おろせ、オスカーっ」

 満足に動かせぬ包帯まみれの足をジタバタ、と言ってもほとんど動いていないのだが、させ抵抗するジュリアス。オスカーは足でクラヴィスの病室のドアを押し開けて中に入った。眠ってしまったクラヴィスを気遣って、もう部屋には誰もいない。

「寝ているようだな……では部屋に戻ろう、オスカー」

 とジュリアスはホッとしたように小声でそう言った。

「仕方ないですね……」

 オスカーはそう言うと、ベッドの側まで行き、眠っているクラヴィスの隣にジュリアスを横たえた。

「あっ、な、何をっ」

「しばらくしたらお迎えにまいりますよ、そのうちクラヴィス様も目覚めるでしょう〜」

 焦るジュリアスを残してオスカーは出ていってしまった。

 


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