「!」

 とドレスの裾を持ち上げて、息を切らしているのは女王アンジェリークである。少し遅れてロザリアがこれまた、ぜぇぜぇと喘ぎながら後に控えている。二人の姿に、他の守護聖は圧倒されながら、一応は、頭を下げて挨拶をした。

「あ……」

 クラヴィスだけはその様子を起こせぬ体の頭だけを少しもたげて見た。

「よかった……クラヴィス……」

 見る見るうちにアンジェリークの緑色の瞳に涙が溢れて頬を伝う。クラヴィスの側まで歩み寄るとアンジェリークは涙を拭きながらクラヴィスを見下ろした。

「すまなかった……心配をかけて……」

 クラヴィスは掠れた声でそう言うと、バツの悪い顔をした。

「約束したじゃありませんか! もうしばらくはサクリア仮面にならないって! 嘘つき!」

 アンジェリークは叫んだ。

「ルヴァが誘拐されてやむを得なかったので……」

 クラヴィスはボソボソと言い訳した。

「だったら! ちゃんと報告くらい下さればいいでしょうっ。心配したんですから……」

 アンジェリークは泣きながら怒っていた。

「女王陛下……ご存じだったのですね、わたくしたちがサクリア仮面であると……」

 リュミエールは林檎を剥いていた手を止めて、おっとりとそう言った

「そんなもの一年前からバレてますわよ〜」

 と横からロザリアがあきれたように言い返す。

「貴方がサクリア仮面の活動をお休みするのを条件に、私とロザリアもサクリアシスターズをお休みする事にしたんですからね。もう! こんな怪我をして。意識がもどらなくてどれだけ心配したか……。くすん、もし貴方に何かあったら、お腹の子はパパの顔が見られないんだからぁ。うぇぇぇ〜ん」

 言うだけ言うと、女王陛下はクラヴィスの胸に伏せて号泣した。

 


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