ズドン! と強い衝撃がジュリアスを襲う。がそれは銃で体を撃たれたものとは違う。「一体、何が?」
ジュリアスは閉じていた瞳を開けた。さっきまで目の前にいたトムサは床の上に座り込んでいる。もう一度、ドドン! バン!と大きな音がしたかと思うと、すさまじい熱気が部屋中に溢れた。ジュリアスは起きあがれぬ体をなんとか反転させて、背後を見た。部屋の入り口付近、潰れ崩れかかった壁とも天井ともつけかぬ所から炎が部屋に入り込む。まだ綺麗な空気を貪り食うように炎は一気に部屋中に広がってゆく。
(オスカーの見せる幻影か?)
とジュリアスは撃ち抜かれた足の痛みの為に朦朧とする意識の中で思った。オスカーの炎のサクリアの力が見せる幻影サラマンダーだと。オスカーが助けに来てくれたのだと。
「うわぁぁぁぁ」
トムサは炎から逃れようと部屋の奧に身を退いた。
「オスカー……ち、違うのかっ!」
炎の熱気がジュリアスの体までも熱く舐める。オスカーの見せる幻影ならば、サクリアを持つ身には熱さは感じないはず……とジュリアスはその炎が本物である事に気づいた。
(このままでは、トムサに撃たれるまでもなく焼け死んでしまう……)
ジュリアスは少しでも炎から逃れようとトムサの後を追う事になるが部屋の奧へと床を這った。
「あきらめるんだな。そなたにもう逃げ場はない、私と一緒に死ぬがいい」
ジュリアスは、部屋の角に追いつめられたトムサを床から見上げると言った。
「ちきしょう!」
トムサは潜水艦に直結しているハッチを開けようとした。がそれはビクとも動かない。
「ヒジカタ! 何してるんや、開けんかい!」
トムサは必死に叫ぶが反応はない。ハッチ上に取り付けられたテンキーにトムサはパスワードを打ち込んだ。ピーッと照合確認の音が鳴るとトムサはホッとして再びハッチのノブに手をかけ、それを力まかせに回す。ボンと間抜けな音がしてハッチが開いたが先に続いているはずの潜水艦に続く狭い通路はなく、錆びた鉄板の壁だけが見えた。
「潜水艦がない……さっきの爆発の衝撃で切り離されたんか……」
トムサは愕然と立ち尽くした。その間も炎は部屋の空間を舐め尽くすように広がってゆく。トムサは我に返るとデスクの上に飾ってあった薔薇の花を花瓶から引き抜き、その水を頭から被った。自分たちを遮って炎の壁となっているところを越えれば廊下に出られると決意したのだ。そうすればまだ脱出用の小舟で外に出られるのではと。
「お前はここで焼け死ね」
苦しんでいるジュリアスにそう言い捨てるとトムサは大きく息をひとつつけ、炎の中に飛び込もうとした。
その瞬間、燃えさかる炎の赤いヴェールの中から、人影が現れた。
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★ 表 紙 ★