「はぁ?」

 他の者たちは意味がわからずにいる。

「イルカ語が話せるのかよー」

 ゼフェルだけがあきれたようにそう言うとリュミエールはこっくりと頷いた。

「ええ、彼らは特定の周波数を使って会話をしています、私は潜って、ここに来て助けて欲しいと訴えました。私の出したパルスは沖のイルカを捉えました。彼らはすぐさま、私の出したパルス音から、ここの位置や私がどんな生物なのかを探知し害がなさそうとわかると協力してくれるパルス音を返してくれましたよ、わたくしは海洋惑星の出身ですからこのような事は造作もありません」

「へぇ、いいなぁ、オレの星には海すらなかったぜ、そんな風に動物と会話できるなんてお伽話だと思ってた」

 ゼフェルはいつになく素直に感動している。

「じゃ、もうすぐイルカたちがここに来て、背中に乗せて浜まで行ってくれるって言うのか……」

 オスカーは信じられないというように両手をあげた。

「ほらご覧なさい、もう来てくれましたよ、ああっ」

 リュミエールはオスカーの背後を嬉しそうに指さしたのだが、すぐさま驚きの声をあげた。

「うわー大きなイルカだなー、イルカってもっと小さいモノかと思ってたぜ」

「ほんとだなー、むしろこれじゃクジラみたいな大きさだな」

 ゼフェルとランディは感心したように黒い巨体でこちらに突進してくるモノを見た。

「なんという事でしょう! わたくしとした事が。イルカを呼んだつもりでしたのにオルカに語りかけていたとはっ。長年の聖地暮らしでわたくしの海洋生物言語能力も低下していたのですね……」

「ちょっと聞くがよー、イルカ語とオルカ語は違うのかー?」

 ゼフェルは少し白い目をしてリュミエールを見た。

「ええ、微妙に違うんです、ヒューーイ、これがイルカ語で、ピューーイ、こっちがオルカ語ですね……」

 リュミエールは不思議な高音を出して説明した。

「わ、わかんねー」

 頭を抱えるゼフェルを余所にリュミエールは間近に来たオルカに向かって、また高音を発すると、クルリと守護聖たちに向き直った。

「さぁ、乗せてもらいましょう」

 リュミエールは皆を促すが、他の守護聖は顔を見合わせて壁に貼り付いている。

「大丈夫、今はお腹は一杯のようですし、安全です」

 リュミエールはそう言うと自らオルカの黒い背中の上に移り乗った。大きな背ビレを掴むと皆に向かって手招きした。

「行くしかなさそうだな……、オリヴィエ、肩を貸してやろう、掴まれ」

 オスカーはオリヴィエを抱えるようにしてリュミエールの後ろに乗せた。引きつりながらルヴァたちも後に続く。オルカの背中は大きく、六人の守護聖を乗せてゆっくりと泳ぎ出す。

「オルカさん、お願いいたしますね」

 とリュミエールは言うと、その背中をトントンと叩いた。崩れかけた城塞島を迂回してオルカは浜へと進んだ。波打ち際ギリギリまでオルカは辿り着き(もうこれ以上は行けないよ)と言うように甲高い叫び声をあげた。

「ありがとう、お疲れさまでしたね。貴方というオルカの事はわたくし決して忘れませんよ……」

 とリュミエールはオルカの頭部を抱きかかえて言った。オルカとリュミエールの種族を越えた交流が皆の胸を打った。がその瞬間、また城塞島で爆発が起こった。打ち返す波と爆発で沸き立つ波紋がほとんど土台しか残っていない城塞島を包み込む。ほんの数時間前まで、頑強な姿でそこに何百年も立っていた城塞島が消え失せている。

「ジュリアス様、どうかご無事で……」

 オスカーの低い声はうち寄せる波にかき消されて誰にも聞こえなかった。

 


第4章
表 紙