★ディラック海
「確かこういう感じのところに外に繋がるドアがあったんです」「ルヴァ様、あれじゃないですか」
ランディが指さした方向に錆びた扉が見えた。書き殴ったZの文字。
「そうです、あれですよ〜」
ルヴァたちはその扉の回りに集まった。そしてゆっくりと慎重にその扉を開けた。ゴォーっという風と波の音が守護聖たちを襲う。ノースウェスト地方のある半島を取り囲むように広がるディラック海の荒波の音は冬の到来を高らかに告げるが如く響きわたる。
コンクリートの僅かな打ち出し部分には頑丈そうな手すりがつけられているが、ボートは見あたらない。真っ先に外に出たオスカーは、その手すりに捕まりながら様子を伺った。
「ボートはない……この荒波じゃ、泳ぐのは無理か……」
オスカーが呟いた時にまた上の方で爆音が聞こえた。パラパラと壁面から小石が降ってくるのを避けながらリュミエールが前に出た。
「危ないぞ、風がきつい」
オスカーの止めるのも聞かずリュミエールは、手すりを固く握りしめると、沖を見つめた。リュミエールは全神経を沖に向けて集中させると嬉しそうに頷いた。
「おい、何をする気だ……」
「驚かないで、ここで待っていて下さいね、ほんの数分で上がってきますから」
「お、おい、数分って! おいっ!」
他の守護聖があっけにとられている間にリュミエールは大きく息を吸うと、うち寄せる波間に飛び込んだ。
「リ、リュミエールーっ」
理解しがたいリュミエールの行動にルヴァは半ば涙ぐんでいる。オリヴィエは傷の痛みさえ忘れてリュミエールの名前を大声で呼んだ。
「リュミエールの事だ、何か考えがあるんだろう……数分待てと言うんだから待ってみよう……」
オスカーは怪我をしているオリヴィエを波風で濡らすまいと自分のマントで覆った。数分……守護聖たちにとっては長い数分が過ぎた。白い波間からリュミエールはパッと顔を出し、いつものようにニッコリと微笑んだ。
「すみませんが引き上げて下さい。衣装が重くて……」
リュミエールは手を差し出すと、ランディとゼフェルがそれを助けてリュミエールを引き上げた。
「もう大丈夫ですよ、助けに来てくれますから」
リュミエールは衣装の裾を絞りながら言った。
「助けにって誰が? 一体何をしたんだ?」
「イルカたちに浜まで運んでくれるように頼んだんですよ」
リュミエールはニコニコとして言う。
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★ 表 紙 ★