★城塞島・二階

 このフロアは窓が一切なく薄暗い。元々、囚人の為に作られた部屋のみの階である為に、今までとは違い壁も床も岩肌がむき出しのままの粗末な造りになっている。その中をギシッギシッと規則正しい音が幾つも連なって守護聖に迫ってきた。

「装甲兵だ……」

 ゼフェルとランディは廊下を曲がって現れた黒い一群を見て凍てついた。その数は十体程だが、生身の人間とは違って装甲をつけた体はクラヴィスよりも二回りは大きい。つややかに黒光している装甲に蹴りを入れても無意味な事である。いかに柔よく剛を制すと言えども投げ飛ばせる重さではない。

「皆、倒れている手下たちの武器を取れ! ブラスターの出力を最大にまであげろ、レイガンしかないヤツは足の関節部分の装甲のとぎれ目を狙うんだ」

と声を張り上げたのはゼフェルである。

「ブラスターの出力を最大……ゼフェルそれは……」

 リュミエールの顔が咄嗟に曇った。

「もう殺らなきゃ殺られるんだぜ! それしかアイツらを倒せねぇ」

 先頭の装甲兵は肩先から掲げたバズーカを装填し、守護聖たちに向けた。

「バ、バカヤロ〜、こんなとこでブッ放す気か〜っ」

 ちょうどその装甲兵と先頭同士で向かい合っていたゼフェルとランディはたじろぎながら後ずさりした。

「バカ! コンナトコロデウツナ」 

 装甲兵のヘルメットからくぐもった機械的に処理されたように声が洩れる。先頭の装甲兵は心なしか残念そうにバズーカを降ろすと今度は腰につけてあった小型銃に持ち替えた。

「あ〜よかった……よくないーっ、撃ってくるっ、ゼフェル伏せろっ」

 先頭の装甲兵は、間合いもへったくれもなく小型銃を乱射した。威嚇するだけと指示を受けているのか、天井や壁に向けて乱発しているのがせめてもの救いである。撃たれた岩壁が飛び散り、守護聖たちの体に無数に傷をつける。が、整備され内装の施された上の階とは違い、何百年も前の牢獄そのままの造りのフロアのお陰で、足場は悪く、デコボコの岩の壁が隠れ蓑代わりになり守護聖たちには好都合ではあった。かろうじて装甲兵たちの攻撃をかわしつつ、守護聖たちは撤退する。岩影に身を隠しつつ、ランディは、装甲兵に狙いを定めているゼフェルに言った。

「おい、ゼフェル……銃は撃ってくるけど、出力は最小みたいだし狙ってくるのはこっちの手足のみ、俺達の事、本当に殺そうと思ってないんじゃないかな?」

「かもな……。そうでなきゃ、とっくに殺られてるぜ。装甲兵になんかかなうもんか」

「装甲兵たちは命じられてるだけで、本当は俺たちの事を殺したくないんじゃないかな。守護聖を平気で殺せるなんて人は主星にはいないと思うんだ。たとえマフィアでも……」

「わかんねー、でも好意はもってないみたいだしよ、現に見ろよ、オレたち傷だらけだぜ、おめー、腕、大丈夫かよ?」

 ゼフェルは前の装甲兵の動きを気にしつつもランディの腕を心配そうに見た。白いブラウスの左腕の部分が血で染まっている。

「ああ……痛い、のは痛いんだけど、大した事ないよ。ゼフェルこそ」

 ゼフェルのむき出しの腕は、飛び散った岩の破片をまともに受け、無数の傷から血が滲み出ている。

「こんなのかすり傷だぜ……足の方が痛いんだ……ちょっとグネっちまったみたいで……、あ、伏せろランディ! 狙ってやがるっ」

 装甲兵の銃がこちらを捉えたのを感じたゼフェルは咄嗟に身を屈めた。細いレーザーがゼフェルの足をかする。黒革のズボンからは白煙が一筋上がり、ゼフェルはガクッと膝をつけいた。

「痛っ、う……ちくし…ょう…」

 ゼフェルの顔が苦痛に歪む。それを見ていたランディは思わず岩影から飛び出した。

「あ、バカ! 何しやがるっ、もどれ! ランディ!」

 ゼフェルの叫びを無視してランディは装甲兵の前に立ちはだかった。真っ正面に両手を広げて飛び出して来たモノに対して、装甲兵はピタッと攻撃を止めて立ち止まった。

「もうよせよ……君たちだってこんな事、心から望んでしてるわけじゃないだろ? 守護聖だと言う事を鼻にかける気はないけど、でも俺たちは宇宙の調和を支える為になくてはならない存在なんだ。無意味な戦いはもうよせよ。君たち自身が俺たちに恨みがあるわけじゃないだろう!」

 とキッパリハッキリとランディは言った。それまでの打ち合う銃の音や、安否を気遣う守護聖同士の声、装甲兵の体から発せられる機械的な音といったものが、全部ピタッと止まり、まさに静寂がフロア内を支配した。

 ギィッ……と最後尾にいた装甲兵が動く音がし、それに連なるように、別の装甲兵も動く。守護聖に背を向けて、装甲兵たちは後退し始めたのだ。

「ランディ……立派でしたよ……」

 ルヴァは、ぼうっと立ち尽くしているランディに涙ぐみつつ歩み寄った。

「ランディ、よくやった。このジュリアス、そなたの成長ぶり、しかと見届けた」

 ジュリアスは満面の笑顔でこの若く頼もしい守護聖に声をかけた。とその時、フロア内の照明が一斉に、赤い警告灯に代わり、点滅を始めた。

「ハヤクシロ、ジカンダ。テッタイダ! ヤツラノコトハホッテオケ! バクハツスルゾ」

「ニゲロ〜」

 と装甲兵たちの声が響いた。

 


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