階段前に立ちはだかっていた数人の手下をなんとかジュリアスたちがやっつけると、その時また爆音が上で響いた。ズンと突き上げるような振動は前回と同じ。違うのは、その揺れが今度は長い。そしてもう一度、爆音。

 いままでとは桁違いの爆音がし、壁に這わせてあった配管パイプが炸裂し飛んだ。それがちょうど横にいたジュリアスの顔面を直撃する。が、とっさにオリヴィエはジュリアスを突き飛ばした。割れたパイプの先端は情け容赦なくオリヴィエの背中を突き刺した。

 爆発の振動で床にたたきつけられたクラヴィスと、オリヴィエに突き飛ばされたジュリアスは同時に身を起こし、倒れているオリヴィエの元に駆け寄った。

「オリヴィエ! しっかりせよっ」

 ジュリアスは、伏せたままのオリヴィエを少し揺するが反応がない。クラヴィスがオリヴィエの背中に突き刺さったパイプを引き抜くと、呻き声とともに大量の血が辺りに飛び散った。

「う、うう」

「止血をする、しばらくそのままで」

 クラヴィスはそう言うと、オリヴィエの肩飾りを外し、オーガンジーのベールを引き剥がしそれを傷口にあてがった。見る見る間にそれは真紅に変わってゆく。クラヴィスは自分のマントの一部を力まかせに引き裂くと包帯代わりにして、オリヴィエの背中から肩先をきつく結び付けた。ジュリアスはオリヴィエの体を抱えるようにして半身を起こしあげた。依然としてオリヴィエは小さな呻き声をあげるだけで目を開けない。

「オリヴィエ、オリヴィエっ」

 再度、ジュリアスが声をかけると、ようやくオリヴィエは目を開けた。

「あ、ジュリアス、怪我…しなかったんだ…ね。よかった、綺麗なモノに傷が…つくのってイヤだ……か…らさ」

 とジュリアスの腕の中でニコッと笑ってオリヴィエは言った。

「では、そなた自身が傷ついてどうするのだ!」

「あらぁ…嬉しい事言って……く、れ…るね……」

 掠れた声でそう言うと、ガクッとオリヴィエは首を落とした。 

「オリヴィエ? オリヴィエーッ、しっかりせよ、死ぬではないっ」

 ジュリアスは懸命に声を張り上げオリヴィエの肩を揺すった。

「い、いたたたたた。ま、まだ生きてるってば…気、失いそーになっただけ」

「大丈夫だ、ジュリアス。出血の割には傷は浅い。死ぬほどではない」

 とクラヴィスはジュリアスの後でシラッとして言った。

「そ、そなたたちっ。もう心配はせぬっ」

 少し顔を赤らめて怒りながら、でも嬉しそうにジュリアスはオリヴィエを抱いていた手をソッと離すと、スックと立ち上がった。

「しかし今の爆音はすさまじかったな、あっ、見よ! 天井が崩れている」

 ジュリアスが指し示した方向の天井が半分崩れ落ち、そこから外の鈍い空色が切り絵のように覗いていた。

「上の階はもはや、ほとんど崩れているようだが……」

 ジュリアスは落ちた天井部分から上を見上げて呟いた。

「ジュリアス様、ご無事でしたかっ」

「クラヴィス様もご一緒なのですか?」

 とオスカーとリュミエールの声が崩れ落ちた天井の瓦礫の向こうから聞こえた。

「おお、そなたたち、無事だったか」

「はい、ちょうど非常階段を降りたところで爆音がして。危ないところでした、あ、オリヴィエが怪我を」

 オスカーとオリヴィエは瓦礫の積もったところを避け、オリヴィエの側に駆け寄った。

「お前たちも怪我をしているようだが大丈夫なのか?」

 クラヴィスはリュミエールとオスカーの衣装が所々避け、血が滲んでいるのに気づいた。

「かすり傷ですから、大丈夫です。わたくしたちの【召還技】はもはや見切られていてあまり効果がなく手間取ってしまいました」

 リュミエールは溜息をつく。

「お前たちもか。ルマクトーはかなり我々を研究したようだな、やっかいな事になってきた……」

 クラヴィスの言葉にオスカーとリュミエールは頷く。

「先を急ぐしかあるまい。リュミエール、そなたは手負いのオリヴィエを連れて、ルヴァたちの後を追い、聖地に急げ。ルマクトーとのケリは我々三人がつける」

 ジュリアスはクラヴィスとオスカーを見て言った。

「ごめんね……リュミエール。世話かけちゃうけど、こんなじゃ戦えないよ」

 オリヴィエは壁に足を投げ出してもたれ、息も絶え絶えにそう言った。

「いいんですよ、オリヴィエ。さぁ、わたくしに掴まって下さい」

 リュミエールはオリヴィエに肩を貸した。

 下に続く階段も先ほどの爆発で所々壁の瓦礫が崩れ落ちていた。その合間をぬってジュリアスたちは先に急いだ。


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