★ジュリアスの執務室

 ジュリアスの執務室に毎朝、一抱えの郵便物が届く。もちろん差出人から直接、郵便物がジュリアスの元に届くわけではない。【聖地・守護聖様】と宛名の書かれた郵便物は主星主都ルアン市の中心部にある大聖堂サクリア寺院に届けられる。この寺院には、直通の次元回廊が通っていて、聖地での係の者が日に一度、これらを回収に来るのだ。郵便物は安全を確認の上、それぞれの守護聖に配られる。特に明記のないものは全てジュリアスの元に届けられる。毎日、ジュリアスは律儀にそれら全てに目を通していた。

 ルヴァの事を心の片隅に置きながらジュリアスはその中からクマの絵の描かれた封筒を取り上げて開いた。

【村の森の木をぜんぶ切ろうとしている人がいます。私たちの森をこわさないように、しゅごせいさまからめいれいして下さい……】

 幼い字がジュリアスに訴えかける。宛名を見るとジュリアスは資料と示し合わせて、その事実を確かめ、【再度確認後速やかに返答】と記したファイルに入れた。

「いちいちそのようなものにまで返事をするから仕事が減らぬのだ……」

とジュリアスの背後から、その手紙を覗き込んでいたクラヴィスは言った。

「民の声は捨ててはおけぬ。幼き者の声は真実である事が多い。それよりもルヴァの事はどうするか? とりあえずはオスカーを現地視察に出す事でゼフェルは納得したようだが、本当にルヴァに何かあったのなら私たちが動かねばならぬ。しかし全員が聖地を空けるわけにもいかぬからな」

 ジュリアスは郵便物の山を処理しながら言った。

「オスカーとリュミエールにまかせておけばよいではないか、あの二人は強い」

 クラヴィスは気怠そうにそう言うと、ソファに腰掛けた。

「そなた……最近はサクリア仮面にならぬな?」

 とジュリアスに問われて、心当たりがあるクラヴィスはダンマリを決め込む。

「飽きてしまったのか? それとも別に何か事情があるのか?」

 ジュリアスは尚も問い掛ける。

「お前こそ、執務が忙しいという理由をつけて活動せぬではないか」

「本当に忙しいのだ。女王交代に関わる諸業務が山積みだからな。最近は随分とお慣れになったとは言え、まだ完璧とは言えぬ……それにここだけの話しだが、陛下は時々お忍びで遊びに行かれている様子がある。確たる証拠もなしに陛下をお咎めする訳にも行かぬので黙ってはいるが……まったく困ったものだ」

 ジュリアスは溜息まじりに言った。

「すまぬ……」

 ボソッとクラヴィスは呟いた。

「何故、そなたが謝るのだ?」

「い、いや、なんとなく……」

 クラヴィスはバツが悪そうに目を伏せた。ジュリアスはクラヴィスが少しばかり動揺している事に気づかず話続ける。

「その上、こうして毎日届く民の声も無視は出来ない。そなたが手伝ってくれるというならば話は別だが」

 ジュリアスはクラヴィスを睨み付けると、次ぎに手に取った手紙に目を移したが、ふうと息をつき、その手紙をクラヴィスに差し出した。紅い色のカードである。

「?」

 クラヴィスはジュリアスの硬い表情に促されてそれを手に取った。

 

 【守護聖殿

   当家にてささやかながら祝宴を開きます。

   どうぞ皆様全員でお越し下さい。

   尚、ルヴァ様は一足先に当家に滞在されております。

                  トムサ・ルマクトー】

 

 美しい花の紋章が押してあるカードに書かれた飾り文字をクラヴィスは読んだ。

「トムサ・ルマクトー……残虐のジムサの弟……やはりスミス村はマフィアの新しい本部なのか……」

「どちちにせよ行かねばなるまい。オスカーに様子を見に行かせようと思っていたがその招待状には【全員で】とある。全員で行かねばルヴァの身になにがあっても知らぬ……とも読みとれる。一見礼を尽くしたかに見える招待状だが、このカードからは悪の気配が漂う……」

 ジュリアスとクラヴィスは、皆に召集をかけるべく立ち上がった。

 


第2章
表 紙