第2章 「では、行くしかないのですね……」


★王立研究院・次元回廊

 エルンストは困っていた。

「そうは仰いましても……」

「前例のない事だとは知っている、このジュリアスがそれを承知で開けろと言うのだ」

「ですが……内密にと言われましても……」

「ええい、そなたは頭が固いっ」

 ジュリアスは眉間に皺を寄せてエルンストに詰め寄る。

「おめーに言われたくねーよ……」

 とついゼフェルが突っ込もうとするのをランディが咄嗟にゼフェルの口をふさいだ。

「よいか、もう一度言う。我々は主星の民から大事な招待を受けている。ルアン市内ではなく主星にあっても地方の名もないような村ゆえに次元回廊を使わねばならぬ。速やかに回廊の設定をするように」

 ジュリアスは有無を言わさぬとばかりだが、エルンストも一歩も退かない。前任者パスハが仕事の引継の際に、ふと漏らした一言が引っかかっていたのだった。

(時々、守護聖様の行動に不審な点があるかも知れない……お忍びで遊びに行かれる程度ならばよいのだが……)と。よく遊びに出掛ける若い守護聖だけならまだしもルヴァ様以外の守護聖様が揃ってお出掛けとは? しかもこんな田舎の村に。大事な招待ならば、事前に報告があってしかるべき……。それに数日前にルヴァ様がお忍びの休暇とやらで行かれた場所と同じではないか……あの時も内密に……とルヴァ様は仰られた……。エルントストは頭の中で慎重に考えを巡らせる。

「エルンスト……我ら守護聖には人には決して言えぬ秘密がある。お前にそれを話してやってもよいが、重い十字架を背負う事になっても知らぬぞ。お前は宇宙の神秘を解明し、歴代の女王と守護聖が切り開いた次元回廊のルートを完全把握し体系つけるという過去の主任研究員がし残した仕事があるのではなかったのか? 他の事にかまっている暇はないはずだ。筆頭守護聖であるジュリアスが開けろと言うのだから、それなりの覚悟があっての事、お前がここで開かずば、その職を解くまでと承知せよ」

 ジュリアスの背後からクラヴィスが抑揚のない声でボソボソと言った。普段滅多に喋らないだけにクラヴィスにこう言われると反論してはいけない気がしてエルンストはたじろいだ。

「う……わ、わかりました。ただ今、設定いたします。しばらくお時間を」

 エルンストは心なしがグッタリとして次元回廊を開く為に去っていった。

「クラヴィス様、お水です、喉がお渇きになったでしょう。三日分くらい話されましたね」

 にっこりと微笑みながらどこからか水を持ってきたリュミエールは言った。

「私にはあれだけ抵抗したのに、そなただとアッサリ引き下がったな、何か釈然とせぬがまあよい」

 ジュリアスはブツブツ言いながら回廊が開くのを待った。しばらくしてエルンストが戻ってきた。

「仰る通りのポイントに回廊を接続しました。先日、ルヴァ様が降りられた地点とほぼ同じです。Cのゲートよりお入り下さい」

「ご苦労であった」

 ジュリアスはツンと顔をあげるとCゲートに向かおうとした。

「あの……お帰りの予定時刻は?」

 エルンストはこれだけは聞き逃すまいと、大きな声でジュリアスの背後に言った。

「すぐに戻る……いや……」

 ジュリアスは口ごもった。それを助けるようにオスカーが言葉を継いだ。

「心配するな。戻る際には連絡するんだから、速やかに回廊を開けてくれよ」

「は、はい」

 エルンストは不可解そうな顔をして守護聖たちを見送った。彼らの後ろ姿に何故か胸騒ぎを覚えながら。

 


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