★執務室棟集いの間

 ルヴァが例の村に出掛けて五日が過ぎた。他の守護聖には、ルヴァは何やら研究中で図書館に籠もっているという事にしてあった。ルヴァが読書や研究の為に図書館に入ったまま出てこないのは珍しい事ではなかったので、不審に思うものはいなかった。集いの間では、定例のエリア別惑星発達の状況報告が始まろうとしている。

「ルヴァは欠席届が出ているので良しとして……」

 とジュリアスは取り繕いながら、他の守護聖を見渡した。ゼフェルの席が空いている。

「ゼフェルはどうしたのだ? 誰か知らぬか?」

 ジュリアスが眉間に皺を寄せたその瞬間、ゼフェルが部屋に飛び込んで来た。

「ルヴァは?」

 とジュリアスの咎めの声よりも先にゼフェルが言った。

「ルヴァは図書館でお籠もりじゃないの〜、何、慌ててんの?」

 オリヴィエはクルクルとペンを弄びつつ言った。

「図書館にも館にもいない、この聖地の中にはいないんだ」

 ゼフェルは怒った顔をしてジュリアスに詰め寄った。

「ルヴァが図書館で籠もってるって言ったのはアンタだぜ。本当はどこにいるんだか知ってんだろ?」

 ジュリアスは答えに一瞬詰まった。それを見逃さずゼフェルは握りしめた拳の中から小さな機械……キーホルダーのようなものを取り出した。

「これは俺が作ったんだ。ヤングサクリアーズで主星に行く時に、ルヴァがどうしても心配だからって作ってくれって言うからさ。一種の居場所確認装置みたいなもんだな」

 その装置をテーブルの上に置くと、ゼフェルはさらに言った。

「普段は右端の青ランプがついている。真ん中の黄色は、命に別状や怪我はないけど、ゴタゴタしててちょっと帰りが遅れるぜって時、赤はすっげぇヤバイ時。この角にある黒いボタンを押してランプの色を変えるんだ。すると、信号がこれと同じルヴァの持ってるものに届くという仕組みなんだ」

「赤ランプがピカピカ光ってるぜ……」

 オスカーその小さな装置を掌に載せながら言った。

「今朝、気づいて故障かと思ってルヴァを探したらどこにもいない……」

 ゼフェルはその答えを求めるようにジュリアスを再び睨んだ。

「本当の事を言ってやったらどうだ?」

 と黙っているジュリアスに代わりクラヴィスは言った。その言葉にジュリアスはようやく口を開く。

「実はルヴァは主星マフィアの新本部の動向を探りに行ってるのだ……」

 ジュリアスは渋々、ルヴァが出掛けた事を説明した。

「じゃ、本当にもしかしたらルヴァ様が何か危険が……?」

 マルセルの呟きにゼフェルは叫んだ。

「助けに行こうぜ」

「その装置の誤作動という事は考えられぬか?」

 ジュリアスはすぐにでも飛び出して行きそうなゼフェルに問いかけた。

「そんな事わかんねー、でももしも本当にこれがルヴァからのSOSだったら?」

 ゼフェルがそう言った瞬間、ピッと小さな電子音がして、赤いランプが激しく点滅したかと思うとそれきり、消えてしまった。奇妙な静寂が部屋中に走る。どういう事か? と皆の目がゼフェルに注がれた。

「わ、わかんねーよ。落として壊したって事も考えられるし……」

「自分から誤作動に気づいてスイッチを切ったという事は?」

 オスカーの問いかけにゼフェルは首を振った。

「わかんねぇって! 判ってるのはルヴァがここにいないって事だけだ!」

 ゼフェルの叫びを制してジュリアスが言った。

「わかった、手だてを考えるまで、少し時間が欲しい。くれぐれも早まった事はせぬように」

 ジュリアスの言葉にゼフェルは渋々頷いた。

 


next
表 紙