★特別監視室

 その部屋は、窓のない簡素な部屋で寝台と机、ソファなどが一応は置いてあった。そこにルヴァは見張りの男とともに入れられた。見張りの男は体は大きいが愚鈍そうなまだ下っ端と思しき若い男である。ルヴァが守護聖であることは知らされていないらしく退屈そうに欠伸をすると、壁際に凭れてつまらなそうにルヴァを見た。

「はぁ……」

 溜息をついて仕方なくルヴァはソファに座った。しばらくは部屋や見張りの男の様子を見ていたルヴァだが、何もする事がなくなるとやたらと活字が恋しい。

「あのー、鞄から本を出してもいいですかねー」

 ルヴァは見張りの男に尋ねた。

「待て! 武器でも取り出す気だろう、そうはいかねぇぜ」

 男はルヴァから鞄をひったくった。

「武器なんか持ってませんよ、何なら貴方が鞄から本を取り出してくれてもいいんです」

 そう言われて男は渋々、鞄を開けて、緋色の表紙のぶ厚い本を取り出した。バラバラと中を確かめて、それをルヴァに投げてよこした。

「あー、これじゃなくて緑色の表紙のヤツの方がいいんですが……」

「チッ……」

 男はもう一度、鞄の中に手を突っ込んだ。

「緑色……これか。……ん? これは?」

 男は緑色の表紙の本ではなく、楕円形の小さな装置を手にしていた。ゼフェルの作ってくれた居場所確認の装置である。

「あ、それは……」

 一瞬、ルヴァはこれで聖地のゼフェルと連絡が取れる、と思ったが直ぐさまその考えをうち消した。心配をかけたくなかったのである。できれば、なんとか自力で脱出し聖地に戻り改めて作戦を立て、ここに乗り込む事が出来れば……と。

「なんだこれ?」

 男は端についている黒いスイッチを押した。青いランプが点滅する。

「触らないで下さい〜」

 ゼフェルのものと対になっている居場所確認装置とも知らず男はスイッチを押し続ける。

「何の装置だ? 何も起こらないな、壊れてんのか?」

「そうそう壊れてるんです、だから、返して下さい」

 青や黄色のランプはスイッチを適当に押す事でランプが点滅する。でも危険な状態である事を示す赤ランプは、偶然には起こりにくい回数とタイミングでスイッチを押さなければならない。二度軽く押した後、長めに三度押し続ける、しかるのち五回素早く押して、最後に一回長く押す……と赤ランプが点滅する。解除するには、同じ事をもう一度繰り返す。

「あれ? 赤いランプがついちまった? 何か意味があるのか?」

 赤いランプが点滅したままの装置を男は掌の中で転がす。

「それは差し上げますから、せめてスイッチを切らせて下さい〜あの〜ほら電池の無駄使いですし……」

 早くスイッチを切らないとゼフェルが心配してしまう……とルヴァはそう思い男に食い下がった。

「怪しげなものを持ってたら報告するように言われてるんでな」

 男は自分のポケットにそれを突っ込んだ。と、その時ドアが乱暴に開いた。

「おい、交代だ」

「おう」

 男はそのままルヴァの方を振り返りもせずに行ってしまった。

「スイッチを〜〜」

 ルヴァは叫んだが、新しく来た見張りの男が扉を無情に閉めてしまった。装置は男の手から組織の工作班に渡り、信号の受信先が解明されぬまま数時間には完全に解体された。

 


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