聖地の正門、特殊な障壁で隔ててある聖地と下界とを繋ぐただひとつの門。オスカーの指揮するところの近衛兵が常に立ち、万が一に備えている。
「はっ、これはオスカー様お帰りなさいませ」と兵が頭を下げた。「ごくろう」とオスカーは何事も無かったかのようにその門を通り抜ける。その後ろにジュリアス、クラヴィス、リュミエール、オリヴィエと続くのを見て、兵は「あ、あの皆様?」といぶかっている。
「深夜までの仕事ごくろうである」
「ごくろうなことだな」
「ごくろう様ですね」
「おつかれ〜」
次々とねぎらいの言葉をかけられた兵は何か変と思いつつ頭を下げて、守護聖たちの後ろ姿を見守った。
「……皆の者、では、本日はこれにて解散だ」とジュリアスが言った時、背後で「あー」と声がした。皆が一斉に振り向くとそこにルヴァが立っていた。
「おや? 皆さん、夜明けまではまだ三時間もあるのにもうジョギングの用意ですか?」
と皆が手にしている例のスポーツバッグを指さして言う。さらに、ルヴァはジュリアスの顔の傷を見つけて「ジュリアス、無茶はしないで下さいね、大した傷ではないようですが、こういう傷は後が残りやすいですから、手当をしましょう、皆さんは早く館に戻ってお休みなさい、あー、クラヴィス、バッグのファスナーはきちんと閉めないと、仮面が覗いてますよ、ではジュリアス、手当しましょうかねー」
「ル、ルヴァ……」ジュリアスは驚いて立ち尽くす。
「何してるんですか、早くいらっしゃいジュリアス〜」
「あ、ああ」ジュリアスは渋々ルヴァの後ろを付いてゆく。
「後の事はジュリアス様におまかせしておこう、こういう事はリーダーの仕事だしな」
とオスカーが言うと皆一斉に頷き、それぞれの館に帰って行った。
執務室にある建物の一角に医務室がある。もちろん今は深夜なので誰もいないのだがルヴァはそこにジュリアスを連れて行くと手際よく手当をした。
「ルヴァ、何時から知っていた? あ、痛っ」
ルヴァに手当をしてもらいながらジュリアスは言う。
「しみましたかねー、知っていましたよ、随分前から、クラヴィスが一人でやってる頃からね」
「そんな前からか……」
「ええ、それであの人が楽しめるならそれでね、いいと思ってました」
「そうか……いろいろ事情があって結局、今では五人になってしまった……決して、そなたを仲間外れにしていたわけではない」
「わかっていますよ、私はターバンを外せませんからサクリア仮面にはなれませんしね、でも、これからは貴方たちのお手伝いはさせて下さいね。きっとサクリア仮面の役に立てると思うんですよ、お見せしたいものがありますが、それは明日にしましょうかね、手当は終わりましたよ、絆創膏は貼るまでもないでしょう、消毒と塗り薬だけにしましたからね。さぁ貴方も早く館でお休みなさい」
「ありがとう」とジュリアスはルヴァに礼を言うと館に戻って行った。
ジュリアスは館に戻った。さすがに館内はしんと静まりかえっている。ドアの開いた気配に気づいた執事が小さな灯りを手に廊下に出てきた。
「ジュリアス様? お帰りなさいませ、執務室にいらしたのでございますか? 簡単なお食事なら私でも用意できますが……」と少し心配そうに歩みよって来て「あっ」と声を上げた。
「い、いかがなされましたかっ、そのお顔っ」と驚く。
「大した事はない、少し切っただけだ……」とジュリアスは言って執事の肩が震えているのを見て不思議に思い、慌てて側にあった姿見に顔を映して見た。
右の頬、丸く塗られた黄色いヨーチン……。
「食事はいらぬっ、ふ、風呂の用意をするようにっ、おのれルヴァやはり仲間外れを根に持っていたなっ〜」
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