ジムサの広大な屋敷の正門、守衛が二人ドーベルマンを連れて立っている。そこに一台の軽トラがやってきた。アルミ製の荷台箱部分には派手な赤色で(守護聖様もお気に入り・サクリアピッツア)とロゴが入っている。運転しているのは目深にキャップをかぶったオスカーである。
「すみませーん、サクリアピッツアです、ピザお届けに来ました〜」
「何? そんな連絡は受けていないが……それに何故、いつものバイクではないんだ?」
と守衛がいぶかしげに言う。
「夜食だそうで、そりゃ一度に百枚も注文されたんぢゃバイクではちょっと無理っすよ〜、早く通して下さいよ〜三十分過ぎちゃうじゃないですかぁ〜、あ、そうそう守衛の人にも二枚渡すように言われてますんで。ほいよ、これはワンちゃんへのサービスっすよ〜」とオスカーはピザの箱の上にフライドチキンを載せて守衛に渡した。
「よし、じゃ通っていいぞ、この先を左に行け、厨房の勝手口に行けるから」
「まいど〜」オスカーはまんまと正門を抜け言われた通り、厨房の勝手口前に車をつける。
車から降りるとオスカーは軽トラの荷台を開けた。
「着きました、計画通り厨の勝手口です」オスカーがそう言った時、勝手口のドアが開いた。
「おう、ピザ屋か? 誰が注文したんだろうな、まぁいい、中へ運べ」とコックらしい男が中から出てきた。そして荷台の中に潜んでいたジュリアスたちを見つけてしまった。
「なに? ピザはどこだ? お前たち何者? ……誰かっ」と叫ぼうとするのをオスカーは「すまんね」と言うとその男のみぞおちに一発お見舞いする。
ドサッと倒れ込んだ男を踏みつけるように荷台の中からサクリアーズたちは飛び出す。
「行くぞ、ジムサは屋敷中央の居間にいるはずた、一気に突っ込め」
ジュリアスはそう言うと真っ先に勝手口から乱入する。その後にオスカーが続く。
「く、くそぉぉ」と倒れていた男は這いずりながら、勝手口の近くの防犯ベルを押した。
けたたましいベルの音が屋敷中に鳴り響く。とほとんど同時にドドドという地鳴りのような音がサクリアーズの耳に聞こえた。百人のボディガードがサクリアーズめがけて走って来たのだ。
「何? 何なのよう?」
「ひるむなっ 、とにかく居間まで辿り着けっ」先頭を走るジュリアスは立ち止まろうとしたオリヴィエに言う。サクリアーズのメンバーが居間近くまで来ると、その前にあっと驚く程の人数のボディガードが立ちはだかっていた。
「サクリアーズだな? ジムサ様には手は出させぬ」とリーダー格らしき男が言うと、前列のマシンガンを持った男たちが一斉に銃を構える。
「ジュリ……いやゴールド……様っ」とオスカーは思わずジュリアスの盾になろうとする。クラヴィスの背後にピッタリとついたリュミエールは青い顔をして立ち尽くしている。「なんかワタシだけ寂しい気が……」オリヴィエは腕組みをして最後尾に立っている。
「このまま大人しく帰るなら、蜂の巣になるのだけは許してやろう」とリーダーらしき男はサイレンサー付きの小さな銃をジュリアスに向ける。
「サクリアーズは誰の許しも請わぬ、許しを請うような事は決してせぬ、そなたたちこそ道を開けるがよい」とジュリアスはオスカーを退け前に出る。
「ならば」とリーダーの男が合図すると、マシンガンを持った一人がダダダダと銃を乱射する。威嚇射撃だったが、廊下の飾り照明に当たって砕け散ったガラスの破片がジュリアスの陶器のような頬に小さな傷をつけた。
「おのれ、ジュリアス様のお顔をっ、下がっていてください、貴方が手を下すまでもありません」
怒りに燃えたオスカーは、ズイッと前に飛び出すと
「思い知るがいいっ、出でよ、火龍!サラマンダーっ」と叫んだ。オスカーのサクリアが炎を纏う龍の姿の幻影を映し出す。
「う、うわぁぁぁぁ〜あ、熱い、体が焼ける、助けてくれぇぇ」
とその幻影に惑わされたボディカードたちの体を火が舐め尽くす。
身もだえして苦しむ男たちの前に、先ほどまでクラヴィスの後ろで震えていたはずのリュミエールが立ちはだかった。
「熱いですか? 可哀想に、では冷やして差し上げましょうね」と微笑むと
「南無水龍召還、リヴァイアサン〜!!」と声を上げた。今度は冴え冴えとした銀青色の鱗を持つ水龍が迫る。大津波、砕け散るヒョウの幻影と共に男たちの体に鋭い痛みが走る。
火と水の攻撃を交互に浴びた百人近くのボディカードたちは息も絶え絶えで折り重なって倒れている。その人の山を踏みつけながら、オスカーとリュミエールは高笑いしながら「さぁ、ジムサを成敗いたしましょうっ」と言い放った。
「なんなのよ〜、ワタシの技とエライ違いじゃない〜納得いかないわ〜」
「少し派手……のようだな」
「私も何か新しい技を編み出さなくてはっ」と他の三人はそれを唖然と見ていた。
居間へドアを蹴りやぶって入ったサクリアーズは窓から逃げようとしているジムサを見つけた。「待てっ」とオスカーはその襟首を掴み部屋の中に引き吊り上げた。
「ジュリアス様、早く誇りのサクリアをっ」とオスカーはジムサをジュリアスの前に跪かせる。
「よしっ、ホーリー・シャイニング・アタック〜っ」ジュリアスの手から黄金の光があふれ出し、ジムサの体を取り巻くと天に向かって螺旋を描き登ってゆく。
「う、うわああああ」と叫び声を上げてジムサは倒れ込んだ。
「帰ろう……始末はついたな」
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