リュミエールの館から帰る途中、クラヴィスが公園を横切って戻ろうとするとベンチにオリヴィエが座っているのが見えた。

「このような時刻に何を? 夜更かしは美容に悪いのではなかったのか?」

 クラヴィスは声をかけた。

「あっ、ビックリしたぁ〜、いきなり、ぬーっと現れるんだもの」

 とオリヴィエはハァハァ言いながらクラヴィスを睨む。

「サクリア仮面になってから、なんか夜更かしのクセがついちゃってね、眠れないんで月光浴」

「そうか……ところで私のサクリア仮面の衣装の事だがベルトの収まりが悪いのだが」

「あら、そぉ、んー、クラヴィスにはベルトの長さが少し足りなかったかかもね、腰周り何センチだっけ?」

「知らぬ」

「もーちょっと腕あげて」とオリヴィエは言うと、自分の手をサッとクラヴィスのウェストに回す。

「えーと、これくらい、あ、やっぱり私よか随分大きい」

「作り変えないとだめか」

「あれでもうギリギリの長さだからね、わかった新しいの注文しとくから、しばらくは我慢して」

「すまぬが頼む」

……とこの様子を木陰から気を失いそうになって見ていた人物がいた。リュミエールである。

 クラヴィスに館まで送ってもらって、すっかり気分のよくなったリュミエールは、今ならよい演奏ができる、小曲くらいならば路上でも……と思いクラヴィスを追って来たのだった。遠目ではオリヴィエがクラヴィスの腰に手を回し抱きついたとしか見えない。クラヴィスは抗うどころか、何かしら頷きながら、すまぬと言ったような口の動き……。

(何がすまぬのでしょうか、このような夜更けに忍び会わねばならない事ですか)

 リュミエールは絶望の淵に立って、今にも崩れ落ちそうになりながら館に戻った。


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