6 「わたくしは争いは好みませんよ〜ははははは」


 土の曜日は守護聖も休日である。オスカーは明け方、例の側仕えの部屋から戻ってきて、もう一度ベットに潜り込んだ。昼過ぎになってようやく身支度を整えるとリュミエールの館に向かった。

「オスカー、そのような姿をして主星でお遊びですか?」

 オスカーはいつもの衣装ではなくブルゾンとスラックスという出で立ちである。

「そうさ、今宵は主星で何もかも忘れて遊びまくるんだ、その前に報告しておかねばと思ってね、例の中身」オスカーは手短にバッグの中身について説明する。リュミエールの顔色が一段と悪くなる。

「オスカー、わたくしも主星にまいります。ご一緒させて下さい」

 と言うとリュミエールはすっくと立ち上がった。

「ああ、かまわんさ、だが行く先はお前には似合わない場末のキャバレーだぜ」

「かまいません、たまにはそのような場所で我を忘れることもよいでしょう」

 

 「アカツキ荘」というアパートが主星首都ルアン市の下町にある。一部屋と湯を沸かせる程度の台所だけの狭くて汚いアパートで、住人は学生や出稼ぎに地方から出てきたもの、などである。そのアカツキ荘の二階の端二〇一号室に……サクリアーズがいる。

「早くせぬかオリヴィエ、そんな風にたくさん装飾品を付けるから着替えに手間取るのだ」

 ジュリアスは壁にもたれて、イライラしている。

「どうせ日が沈まないと出かけられないんだし座って待てばいいでしょ、それにこのアクセサリー類がないとね、気分でないんだ、ワタシ」

 オリヴィエはスポーツバッグの中から様々なアクセサリーを取り出すといちいちその輝きを確かめつつ身に付けてゆく。

「椅子もないのに床に座れるか、そなたもっとマシな部屋はなかったのか」

 とジュリアスは、その床……に寝ころんでいるクラヴィスに言う。元々、この部屋はクラヴィスが一人でサクリア仮面として活動していた頃から借りていた部屋である。

「身元保証人もなく貸してくれるのはここだけだったのでな」

「それにしてもこのような所、人が住むところとは思えぬ」とジュリアスはささくれだった畳みのヘリを足で踏みつけながら言う。

「こんな所に住まなきゃいけない人の為にも、ね、サクリア仮面はいるんだ。ジュリアスはさ、貴族だったから知らないかも知れないけど、夜露をしのげるこんなところでも天国だって思う人だっているんだよ」とオリヴィエはアンクレットをはめながら言う。

「そうだな」とジュリアスは小さく呟くと、勇気を出して床の上に座る。

「クラヴィス、お願い」とオリヴィエは髪を後ろでたくし上げ、ペンダントの金具を止めてくれるように言った。クラヴィスは細く長い指でその金具をソッと止める。

「ありがと、ぢゃ今度はワタシが髪を結んであげるよ」とオリヴィエは慣れた手つきでクラヴィスの長い髪を結ぶ。 「ちょっと編んじゃおうかな〜、うふふ〜、ジュリアスも後で、リボン結んであげるから待ってて」とオリヴィエは嬉しそうに言う。最初は嫌がっていたクラヴィスとジュリアスだが、オリヴィエに髪を結んでもらうと、どんなに動いてもあまり乱れないので最近は素直に結ってもらっているのだった。

「特に今日は流しの日だしな、しっかり結わえておいてくれ」とクラヴィスは言った。

 流しの日とは下調べなどの準備もなく主星に降り立ち、ダウンタウンで何か事件のおきるのを待つ日の事である。実を言うとサクリアーズはこの流しの日を密かに楽しみにしている。こっちの方が思う存分暴れることできるし、ギャラリーも多い。

 ようやく皆の用意が整いサクリアーズはアカツキ荘を後にした。

 もちろん、まだ仮面は付けていない。オリヴィエはサクリア仮面の衣装の上に黒いサテンのジャンパーを着込んでいる。背中にショッキングピンクの薔薇の花が刺繍されていて、悪趣味なものなのにオリヴィエが着ると妙に格好が良い。ジュリアスはトレンチコートの襟をきっちりとしめてビジネスマン風にしている。クラヴィスは黒いシルクのコートをただ羽織っているだけで、はだけたところからサクリア仮面の衣装が見えているのだが、行き交う人にバレている様子はない。

 ルアン市の繁華街の中にあってもすこぶる治安の悪いその街ではどんな姿をしていてもそうそう目立つと言うことはなかった。ゲームセンターや何を売っているのかはわからない怪しげな店、ストリップ劇場など猥雑な店の立ち並ぶあたりを適当にぶらついていると、大抵、どこかで刃物沙汰のケンカだの、嫌がる女に絡む男だのといった小さな事件が起きる。ここぞと言うところで、「待てっ」とサクリアーズは登場する。

 この日も、サクリアーズの三人が歩いていると、どこからか「大喧嘩だぁ〜」と叫び声がしてきたのである。


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