その頃、クラヴィスの館ではリュミエールがハープをつま弾いていた。ハープを引きながら、リュミエールはいかにして例のバッグの中味を調べるかを必死に考えていた。それを見透かすかのように「リュミェール、お前の心はここにはないな……」とクラヴィスは呟いた。

「え?」リュミエールはハープを弾く手を止めてしまう。

「何か心配事でもあるようだな……もう今宵はゆっくり休むとよい」

「あの、わたくしは……申し訳ありません、自分から演奏をお聞かせすると言っておきながら」

「かまわぬ、調子が良くなったらまた聞かせてもらおう、そなたのつま弾く音は私の心に響く、良くも悪くも。そなたが優しい気持ちで弾くときは私の心にも穏やかな風が吹く」

 とクラヴィスはいつになく饒舌にリュミエールに言う。そんな風に言われてはリュミエールはもう何も言えない。

「もう遅い、館まで送って行こう」とクラヴィスはリュミエールに有無を言わさずに部屋を出た。リュミエールは半歩遅れてクラヴィスの後を、その背中に向かって愛の言葉を呟きたい衝動にかられながら歩いていた。

(クラヴィス様を疑ったわたくしがバカでした……もう浅はかな詮索はしません)とリュミエールは心に誓った。水の館の前で、リュミエールは深々とクラヴィスに向かって頭を下げ、彼が闇の中に溶け合うまで見送った。


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