オスカーとリュミエールは画策する。あの怪しいスポーツバッグの意味はなんなのか?
「ジュリアス様はジョギング用のシューズなどが入っている……と仰っていたが……」
「とにかく中身を確認しなくてはなりませんね」
「わかった、なんとしてでも確かめてやる」オスカーとリュミエールは頷き合う。
ジュリアスは几帳面な性格である。備えあれば憂いなしの言葉通りに週末、サクリア仮面として出かける前日には例のスポーツバッグの中身をキッチリと整えるのである。サクリア仮面の衣装一式、怪我をした時の為の救急道具、高い塀をよじ登る為のロープや懐中電灯なども一応用意しているのだ。この日もジュリアスはバッグの中身をチェックしクローゼットの定位置に置いて眠りについた。
夜十一時……オスカーはジュリアスの館の廚に入り込んでいる。
「君はこんな遅くまで働いているのか、ジュリアス様もむごい事をなさる、君のような乙女がこんな時間に働いていてはいけない、夜は恋人と共に過ごすためにあるんだぜ」と側仕えの手を取る。
「恋人なんていませんわ……それに今日は私、遅番なんです」
「恋人がいない……君のような可愛い人が?俺では君の恋人になれないかな? おっといけない、守護聖と君とは生きる時間が違うんだったな、いくら想っても所詮は一夜だけの恋人にしかなれないのか」とオスカーは苦悩する……フリをする。
「一夜限りの遊びだよ〜」とオスカーは言っているのだが、側仕えはついホロリとして「一夜だけの恋人でもいい……」と言ってしまう。
最後まで言い終わらないうちにオスカーは側仕えを引き寄せてソッと口づけする。
「じゃ、君の部屋で待っていてもいいかい? 部屋はどこだい?」と耳元で囁く。
側仕えはジュリアスの館の一角の自分の部屋をオスカーに伝える。オスカーはその場所がジュリアスの衣装部屋の比較的近く……と言う事を既に知っている。そこそこ好みの側仕えの部屋の位置は大体頭に入っているのだ。もちろん、今日この女が遅番であるというのも調べ済み。オスカーは「待っている」ともう一度言うと、その女の部屋に急ぐフリをして二階のあるジュリアスの衣装部屋に潜りこむ。
きちんと整えられた衣装部屋の角に例のスポーツバッグはひっそりと置かれている。オスカーは、はやる心を押さえてバッグのジッパーを開く。白いタオルと携帯用の救急セットが見える。(やはりただのジョギンググッズか……)とオスカーはホッとしながらジッパーを閉じようとして、その横にロープが入っているのを見つけた。(何故……ロープが……あっ)オスカーはさらにその下に仮面を見つける。よく見ればそれはサクリア仮面のSの文字がついたものと解るのだが暗がりなのでただの仮面にしか見えない。さらに出てきたのが、鞭にもなるというオリヴィエ苦心の細ベルトであった。
(縄と仮面……に鞭)動転したオスカーの脳裏にはたった一つの答えしか思い浮かばない。
「ジュリアス様……何故……」
その時、階下から人の上がってくる物音を感じたオスカーは慌てて衣装部屋を出た。
「あら? オスカー様」先ほどの側仕えである。
「や、やぁ君の部屋がわからなくなってしまって。どこだったかな? 連れていってくれるかい?」
側仕えは恥ずかしそうに頷く。
「いい子だ、お礼に俺は君を天国に連れて言ってあげよう……」オスカーはバッグの中身に動揺しながらも側仕えの腰に手を回した。
★NEXT★
★表紙★