1 「サクリア仮面 見参!」


 最近、主星に出没する謎のサクリア仮面。

 弱きを助け強きを挫く愛と正義のその人の正体は誰にもまだ知られていない……。

 そう、サクリア仮面が闇の守護聖クラヴィスだとは誰もまだ知らない……。

 

 主星ルアン市郊外のとある屋敷。庭に放し飼いにされたドーベルマンがその影に気づく。犬が一声吠えた時には、影は犬の鼻先に特別な魔法をかけ終わった後であった。

「何もかも忘れて眠れ……」と。クゥゥンと小さく吠えて為すすべもなく犬は体を丸くして眠りに落ちる。この屋敷の主はそれに気づく様子もなく贅の限りを尽くしたその居間でくつろいでいる……だが、その背後にはすでに……。

「サクリア仮面、見参っ」

「あ……サ、サクリア仮面……誰かっ、誰かぁぁ」

 館の主の叫ぶ声と、ほぼ同時に隣室の警備員が駆けつける。居間とテラスの窓が開け放たれて夜風の中にサクリア仮面が立っている。黒いマント、顔半分を隠している銀色の仮面。

「まっとうな商社を隠れ蓑にしての人身売買、お前たちの悪行はこのサクリア仮面にはお見通しっ。観念して外道ではなく人としての道を歩み直すか、さもなくば……」

「しゃらくさい、やってしまえっ」

 館の主が叫ぶと黒服の鍛え上げられた体躯の男たちが十数人、各々の手にはその悪行を裏付けるかのような武器を持ち身構える。

「ふっ……面倒なことだな……」

 サクリア仮面は、マントをサッと翻し、欄干から飛び降りる。

「お前たちは所詮雇われ者、命だけは助けてやろう、皆、眠れ……」

 先刻の犬のように男たちは、立っている事も出来ずに膝をつく。突然の強い眠気に耐えうるものは誰もいない。急に男たちが倒れたので、その後ろに唖然としている館の主の姿が露わになる。

「何……の、望みはなんだ、金でも宝石でも……命だけは……」

 そのセリフがサクリア仮面には無意味とは解っていても、全てを己の欲だけで生きてきた男には言わずにはいられない。一分の望みをかけて言ったその言葉にサクリア仮面の強烈な蹴りが入る。

「では、戴こうか、お前の全てのものを……」銀の仮面の中で黒い瞳が笑った。 

 数日後、全てが露見しその館の主は一生を牢獄の中で過ごす身となった。その莫大な財産は没収、慣例に従いその全てを辺境地域の復興と福祉に使われることになったのだった。


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