良い季節になった……と思いながらクラヴィスは、女王宮殿から執務室棟へと歩いている。長い外回廊のそこかしこに、風に送られてきた枯葉が落ちている。赤や黄に色づいたそれは決して邪魔なものではなく、暮れゆく午後の日差しに温かみを添えていた。 

 執務室棟の入り口で背後から「クラヴィス、クラヴィス〜」という独特のゆったりした口調が聞こえてくる。クラヴィスが振り向くとルヴァが駆け寄ってきた。
「今、貴方の執務室に行こうと思ってました」
 ルヴァは抱えていた本をいきなり広げるとパラパラとページを繰る。
「ええっと……あ、これこれ。はい、どうぞ」
 取り出した紙片をルヴァはクラヴィスに手渡す。古ぼけた写真……。

 真っ直ぐな黒髪、色の白いほっそりとした十歳前後の子どもが写っている。
「これは?」
「図書館で古い本を整理していたら間にそれが挟まっていて。女の子のようでなんてかわいらしい。二枚目の写真が無かったら貴方とは判りませんでしたよ。でも、面影はありますね」
 と、言われてクラヴィスは下になっているもう一枚の写真を見た。ゆるやかな金の髪にきりりとした青い瞳、こちらは誰が見てもジュリアスの子どもの頃だとすぐに判る。その横で先の黒髪の子どもが寄り添って映っている。二人とも少しはにかんでおり、仲睦まじい。

「良い写真ですね。持ち主にお返しできて良かった……あ、ゼフェル、ちょっとお待ちなさい!」
 ルヴァは笑顔でそう言うと、たまたま廊下を横切って行ったゼフェルを見かけて叫んだ。
「げ、やば」
 また何かしでかしたのか、慌てて駆け出すゼフェルを追って、ルヴァは、もたもたと走り出した。
「では、クラヴィス。確かに渡しましたよ〜」と叫びながら。写真を手にしたままクラヴィスは取り残され、それをじっと見つめた後、歩き出す。

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