執務室棟の一番奥に向かい合わせにある光の守護聖の部屋と闇の守護聖の部屋。自分の部屋に入らず、クラヴィスはジュリアスの部屋の扉を叩く。扉の向こう、大きな机に座って書類を書いているジュリアスがゆっくりと顔をあげた。スタスタ……いつもより速歩でと歩いてくるクラヴィスを訝しげに見ている。
「ルヴァが……古い本に挟んであったこれを見つけた」
 と件の写真をクラヴィスは机の上に置く。
「あ……」
 とジュリアスが小さな声をあげた。

「これは……誰だ?」
 クラヴィスは黒髪の子どもを指した。
「ルヴァは私と間違ったようだ。確かに似てはいるが私ではない」
 ジュリアスは懐かしい目をして写真を見つめている。
「無くした当時、あれほど探したものを……。図書館の本に挟んだままにして返却してしまったのか……」
「誰だ?」
 クラヴィスはもう一度問うた。

「休暇先で出逢った少女だ。時の差を利用して辺境の星へひと夏、出掛けた時の。確か……十一の時だったか。それまではこうした休暇は、そなたと一緒に出掛けていたが、十一歳から別々の場所に単独で行かされることになっただろう」
 クラヴィスは微かに頷く。
「そなたに似た後姿に、間違って声を掛けた。後からそなたが追ってきたのだと思って。私が宿泊していたホテルからほど近い所に住んでいる地元の少女で……」
「随分と親しくなったのだな。そのような写真を共に撮るほどに」
 やや間があって、ジュリアスは微笑みながら「…………そうだな……」と答えた。
「初めて手を繋いで歩いた女性だ。森の小道を。主星から避暑に来たということになっていたから夏の終わりには別れねばならぬ。互いに寂しく思ったが、まだ子どもの事とてどうすることも出来ず、せめて写真をと望まれるままに……な」
 さらにジュリアスは言葉を続けた。
「これで去らねばならぬ日の午後、大きな切り株の上に座って……口づけを交わした」
「ひと夏の恋とは、お前らしからぬことだな」
 嫌味たっぷりにクラヴィスは言う。
「恋というにはあまりにも幼い頃の事だ。口づけと言っても挨拶のようなもの……」
 ジュリアスは穏やかに微笑んだ。

「懐かしくてたまらない……という目をしている。初めての事ゆえに心に深く残ったか……」
「初めての事?」
「口づけが、だ」
「初めてではないが……」
「なんだと?」
「ああ……女性と……というなら初めてだが。私の初めての口づけの相手はそなただろう」
 クラヴィスは目を見開いた後、黙り込んだ。
「ほう、忘れられていたとは寂しい限りだな」
 今度はジュリアスが嫌味たっぷりに言った。
 

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