「ディア、今夜は少し辛いかも知れないわ……また随分……育つはずの星が消えたわ」
涙は、……流れない。慣れてしまったから……と彼女は思う。
「陛下……」
心配そうに女王の横顔を見ていたディアは、手にしていた純白の香炉を、テーブルに置いた。二人でいる時は、同じ目線で、友として側にいて……と女王から言われているディアは、彼女のすぐ横に座
り、その背中に優しく触れた。
「クラヴィスの事が心配だわ、たぶん彼はもう幾晩もまともに寝てはいないはず……今夜もまた彼は眠れないわ」
「お顔の色は優れないけれど、昼間、執務室で休んでいるようよ。今日はアンジェリークと……」
そう言いかけたディアの戸惑いの間を、否定するように、女王は首を左右に振った。微笑みながら。
ディアは、頷いて言葉を続ける。
「アンジェリークと庭園にいたようよ、少しは元気を彼女から貰ったと思いますわ」
「そうね、ジュリアスはどうかしら? クラヴィスもそうだけれど、ジュリアスもかなり無理をしているよう……。クラヴィスほど直接にではないけれど、誰よりもこの宇宙
に責任を感じているのは彼だもの。クラヴィスのように執務室で休息を取れる人ではないし」
直接に見たわけではない、それを感じるのだと言うように、女王は自分の胸に手を置いて言った。
「陛下……わたくし、オリヴィエに少しお話しをしました。勘の良いオリヴィエは、陛下の具合を、薄々感じ取っていた様子だったので。それに、ジュリアスのいろんなものを抱え込んでる手を、解いてしまえるのは、オリヴィエかしら……と思ったので」
「そうね、ルヴァは半分持ってくれるタイプだけれど、オリヴィエは、持ってあげるふりして捨てさせちゃうタイプね……ふふふ、でも、それが今はとても必要ね。
切り捨てる非情さも。後は、あの子たちの力で強く導いていってくれることを祈るだけだわ……」
「あと少しで決まるでしょう……新しい女王も」
ディアがそう言っている間に、女王は瞳を強く閉じ、こめかみのあたりを押さえた。
「そうね……ディア……また……行ってくるわ、呼んでいる、私の宇宙……。香炉を用意してくれてありがとう……気持ちが随分柔らいだわ」
「アンジェリーク……おやすみなさい」
良い夢を……とディアは言わなかった。良い夢はそこにはもうない。女王が向かうのは、闇の安らぎのサクリアだけを貪欲に欲する終焉の宇宙なのだから…………。
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