濃紺のそのスーツは一見、普通っぽいが、側に近寄ると、恐ろしく手の込んだ仕立てであると判る。ジュリアスの体の線と動きを計算し尽くして造られている。
「チャーリー、主星の物価には、まだ疎いのたが、このスーツは高価すぎるのではないか?」
ジュリアスは鏡に映る自分の姿を確認しながら言った。そのスーツ一式を用意したチャーリーは、ジュリアスの姿にウットリしながら言った。
「ん〜まー、かなりちょっと。そやけど、ジュリアス様の初出勤なんやから、それくらいは。その代わりネクタイの方は、オーダーやのうて、十万聖地ドルの安モン。そのあたりの、崩しのお洒落が微妙なトコですねん〜。けど、ジュリアス様がすると安モンには絶対見えへんなぁ、よう似合うてる」
安モン……とは言うものの一般庶民からすれば高級品なのだが……。 チャーリーは、ジュリアスの横に立って、姿見に映る自分たちを見た。
「ふっふっふ、俺のスーツは、実はジュリアス様のと生地は一緒の色違い。さりげにお揃いやったりして……。
"見て、社長と新入社員の秘書、おそろのイロチだわ。デキてるのかも"
"ホントッ。いやぁん、私、社長にアコガレてたのに……ショックゥゥ"
……あれ? このネタ、前に使うたかいな? そやけど、ジュリアス様、そんな風に髪を整えて後ろで、きっちり結わえはると、なんか俺たちってとちょっと顔立ち似てへん?」
チャーリーは自分の顎を触りながら言った。
「愛し合う者同士は似てくると言うしなァ。ほら、長年連れ添うた夫婦なんか、クリソツいう事ようあることや。俺とジュリアス様も、もしかしてもうその域なんかも〜。うわー、どーしよー俺の目ェも、そのうち青なったりして〜、なれへんちゅーねん! ジュリアス様もそのうち俺と同ンじよーな喋り方になったりして。うわぁ、それはちょっと嫌すぎ………あ、あれ、ジュリアス様、もうまた先に行ってしまわはる……ち、ちょっと待ってーー」
チャーリーは慌ててジュリアスの後を追う。
「早くせよ、チャーリー、社長自らの朝礼があるのだろう。そこで今日は私も挨拶せねばならぬのだから、時間に遅れるなど許されぬ。エアカーで社まで行くのに渋滞しているかも知れないではないか」
「社長の俺がここにいてるんやから、大丈夫ですってば〜、あ、ちょっと、ジュリアス様〜」
(なんか昔っから、俺、ジュリアス様の背中追いかけてばっかりやん〜。)
そう思いながら、チャーリーはジュリアスに追いつくと、その肩をポンッと叩いて、彼を追い越した。
「頑張りや、新入社員サン!」
スキップしながらチャーリーはジュリアスを追い越してゆく。
「置いていきまっ……せ……っとととと……」
振り向きざま、蹴躓きそうになりながら、チャーリーはジュリアスに手を振った。ジュリアスは微笑みを返すと、チャーリーに追いつこうと早足になった。
(アカン、追いつかれる)
「よっしゃ。エアカーまで競争やーー」
走り出すチャーリーの背中にジュリアスは、笑いながら声を張り上げた。
「廊下では走るでない……たとえそれがそなたの私邸であってもだ!」
おしまいッ
おまけ
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