『誰も知らないウォン財閥の社史』


さらに秘密の……番外編

 
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ〜」
 チャーリーは首にかけていたタオルを腰に巻きつけると、その場にひれ伏した。

「す、スミマセン、すみません、すみませーーーん、お、、おっ俺〜」
「いや、もうよい」
 ジュリアスの声に抑揚がない。
(うわ……完全に呆れられてしもうた……フリチンの上に、一人芝居、その上、パンツの品定め……俺が隠し撮りしたジュリアス様の画像をホログラフに登録してたンもバレバレ〜、ひ〜)
 
「さて、どうしたものか?」 
 ジュリアスはソファに、座ったまま言った。
「あの、できたら無かったことに……」
 チャーリーはこれ以上できないほど、頭を床に擦り付けた。
「………………」
 ジュリアスは無言である。沈黙が続く。チャーリーは、恐る恐る顔をあげた。ジュリアスはソファの肘掛けに伏すようにして顔を隠している。
「ご気分悪いんですかっ、俺、しょーむないモン、見せてしもうたから……」
 チャーリーは慌てて、ジュリアスの側にかけよった。側まで来て初めてチャーリーは、ジュリアスの背中が小刻みに震えているのが判った。
(悪寒が走るほど、気色悪がられてるんか……俺。うう……)
「そなた……は、どうして、そんななのだっ……う……クックック」

「笑ろてはる? ……お、怒ってはらへん?」
「呆れて怒る気にもなれぬ。聖地との回線が開いていたので、驚かせようとした私も悪かった。それに、ここはそなたの私室である。いかような姿をしていても、
誰に咎めることができよう………申したいことはあるが……」
 ジュリアスは腹部を押さえながら言った。それを見るとチャーリーは、幾分安心し、改めて頭を下げた。

「ジュリアス様、俺、帰ってきました。無事、仕事は終わりました。相変わらず細かいトラブルはありますけど……」
「ここしばらくのそなたの動向は、私もサーチしていたので知っている。正式に契約が出来てよかった……とりあえず、気持ちはわかったから、早く何か着なさい」
 ジュリアスは、まだ笑いを堪えながら言った。その様子に、さらに緊張が解けたチャーリーはホッとしながら言った。
「着やなあきません?」
「どういう意味だ?」
「いや、せっかくやし、ジュリアス様の方が脱ぐのもアリかな……と思うて……」
 モゴモゴと歯切れ悪くチャーリーはそう言った。ジュリアスは固まったまま返事をしない。
「あ……じょ、冗談です、じょーだん」
 チャーリーは顔の前で手を必死に振った。
「冗談なのか?」
「あ、い、いや冗談と違う……いや、あの、それは、その」
「どっちなのだ?」
 
(えーい、俺も男やー、当たって砕けたれ〜、もう、どうせ、こんなカッコしてンねん、これ以上、恥ずかしいことなんかあれへんでーーー)
 チャーリーは開き直って、言った。
「冗談と違いますッ」 
 座っているジュリアスを、床から見上げる形でチャーリーは、言った。
「そうか」
 ジュリアスの顔から、笑いが消えた。今度こそ本当にジュリアスを怒らせてしまったのかも知れない……と思うと、チャーリーのつい今し方の強気が一気に萎えていった。床に正座をしている彼の膝の上の手が、キュッと強く握られる。俯いたまま顔をあげることができない。
「チャーリー……、顔をあげて、こちらに来なさい」
 ジュリアスの声がした。ソファに真っ直ぐにきちんと座り直しているジュリアスは、自分の横のスペースを、トン……と叩いてそう言った……。


つづく

 


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