『誰も知らないウォン財閥の社史』


さらに秘密の……番外編

 チャーリーが聖地との往復に使用している転移板は、ジュリアスたちが普段使用している『星の小径』や『次元回廊』の機能を最小限に留めたものである。聖地の王立研究院とチャーリーの私室のあるポイントの間でしか転移はできない。
 ジュリアスはその転移板に乗って、チャーリーの私室に転移した。間接照明が、その部屋の美しさを引き出すような角度で灯っている。デコラティヴな要素はあまりない機能重視の部屋だが、家具や照明、机の上にさりげなく置かれているペントレイやゴミ箱に至るまで、洗練されたデザインで統一されている。聖地の自分の部屋とはまた違った意味で、豪華なその部屋の真中にジュリアスは辿り着いた。
 チャーリーの姿はそこにはない。ジュリアスは隣室の扉の前に、脱ぎ捨てられたスーツを見つけた。微かに水の流れる音もする。
「湯浴みをしていたのか……少し待っていよう」
 ジュリアスは、部屋の角に置かれた恐ろしく背もたれの高い白い革張りのソファに座って待つことにした。
 やがてガチャリ……と扉の開く音がし、濡れた髪を拭きながら、チャーリーが鼻歌まじりに出てきた。
「チャ……」
 と名前を呼びかけようとしたジュリアスは、チャーリーの一糸纏わぬ姿に、唖然として言葉を飲み込んだ。ジュリアスが来ていることなど知らない彼は、壁際のソファには見向きもせずに、裸のまま上機嫌でいる。

「いやぁ〜サッパリしたなー、やっぱりシャワーは、アナログに限るわ。ずーーーっとアイソトニックシャワーやったからなァ。さ、早よ、着替えて聖地に行こ〜、ジュリアス様〜待っててや〜、チャーリー、すぐ行きまっせーー。
 ん〜、どれにしようかな〜、今日のおパ・ン・ツ。この間、ジュリアス様とチュウしてしもたやん〜、そやからもしかしたら、もしかすることもあるかも知れんしー。
"チャーリー、無事で何よりだった、私はそなたに逢いたかった"、
”ジュリアス様、俺もです”、
”チャーリー”、
”ジュリアス様”、
”チャーリー、”
”ジュリアス様"、
”チャーリー”、
"あっ、ジュリアス様、何しはるんですか?"、
”もう我慢ができぬ、よいな?”、

コクコクコクコク……チャーリー、頷きまくりぃ〜ってな展開になるかも。としたら、やっばり、ここはセクシーな黒ビキニ? いやいや相手は高潔なジュリアス様や、そんなパンツ履いてて、遊び人と思われたらアカン。ジュリアス様に、お逢いしてからは、メチャメチャ清い生活してるのに。よっしゃ、シルクの白パンでキマリや〜。なんか俺、アホかも? アホで結構〜、あ〜元気で生きてて良かったな〜、ジュリアス様にまた逢える〜」
 チャーリーは、クローゼットの中の引き出しから、下着を取り出すと、それを片手に、振り向いた。ソファに呆然としているジュリアスの姿が見えた。

「あれ? 俺、ホログラフ呼び出したかな? ああ、そうか、さっきからジュリアス様〜って連発してたから、管理システムがオートで呼び出したんやな。うーん、我がウォン財閥、家電事業部の誇る、ホーム管理システムの人工AIは、おりこうさんやな。それにメディア開発事業部の3Dホログラフときたら、めっちゃ画質ええやんか〜、まるで本物がいてるみたい」
 チャーリーは、まだ気づかない。ジュリアスの方も、声をかけるタイミングを完全に失ってしまっている。

「なんぼ、ホログラフいうても、ジュリアス様の前で、すっぽんぽんは、恥ずかしいわ〜、コンピューター、ホログラフ解除」
 チャーリーは、管理システムに呼びかけた。
「おい、ホログラフ解除やて。……ロックかかったんか? フリーズか?」
 チャーリーは、ソファに座っているジュリアスの側の壁に掛かっているパネルに触れた。
「おかしいなぁ、後でメンテさせよう……、手動切り替え……、ホログラフ、オフ……あれ? オフになってるやないか?」
「チャーリー……」
「はいはい、ちょっと待って……今、主電源からリセットし……え?」
 チャーリーは、手を止めて、ジュリアスを見た。
「私だ……」
「あ……ホ、ホンモン……?」
 ジュリアスが眉間に皺を寄せて頷いたと同時に、チャーリーの手から持っていたパンツが、ペタン……と床に落ちた。

つづく 


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