その後、チャーリーは社長室に一人、戻った。ジュリアスはブレーンたちと反省会に参加している。
「つ、疲れた……ミョーに疲れてしもた……俺も真っ青のテンションやった……」
フーと息を継ぎながら机に伏せるチャーリーである。
「もうすぐ五時か……ジュリアス様は先に帰ってくれって言わはったけど……」
チャーリーはコーヒーを淹れに立った。自分だけの為に……と思うといつものように手間をかける気になれず、インスタントである。マグカップを持ち、窓辺へ。外はすっかり暗くなり、主星首都の美しい夜景が拡がっている。
「都会の孤独ちゅーのん? なんかシンミリな気分や……ハァ」
らしくない雰囲気で彼がコーヒーを飲み終えた時、社長室の扉が開いた。ジュリアスが戻ってきたのである。
「あ、ジュリアス様。反省会もう終わったん?」
ジュリアスを見たとたん、アンニュイな俺が少し和らぐチャーリー。
「うむ。特にトラブルもなく忘年会は終わったのでな。室長が早く切り上げてくれたのだ」
「ホンマに、特別賞のおかげでエライ盛り上がりよう」
チャーリーは少しだけ拗ねた顔をして言った。
「…………」
ジュリアスは苦笑いしている。
「特別賞のこと、ようも俺にナイショにして!」
「すまない。その……ブレーン仲間たちに忘年会の企画については、当日まで秘密なのだと釘を刺されていて……」
「フフン。そやけど……食堂のオバチャンもジュリアス様に腰砕けにされて本望やろなー」
様子を思い出してチャーリーはクスクスと笑った。その後、真顔になったチャーリーは、ペコンとジュリアスに向かって頭を下げた。
「ありがとぅ、ジュリアス様。あんなドンチャン騒ぎを一緒に盛り上げてくれはって」
あのようなバカ騒ぎはやはり本当はジュリアスの性には合わないであろうことは、チャーリーが一番よく知っている。
「いや……思いの外、楽しかった。少し……疲れはしたが。そなたは元気がなかったように思うのだが具合でも?」
ジュリアスの方も、忘年会の最中、チャーリーのテンションがいつもよりずっと低いのに気づいていた。
「ん〜、なんか俺が率先してはしゃがんでもエエと思ったら、まったりしてもうて。それに朝からずっと……ジュリアス様はブレーンと一緒に忙しくしてはったでしょ。すぐ見えるトコにいてるのに、なんか距離を感じてしもて。俺の知らんトコでジュリアス様も人間関係が出来てはるんやなーと客観的に見てたら、下界に降りて一年……よう馴染まはったなあ……と思って。もう…………俺がいてへんかっても大丈夫なんやな……と思うとちょっと寂しい……」
ジュリアスからツ……と目を逸らして、チャーリーが言った。
「そう……だな。今ならそなたがいなくても、なんとかやっていけるかも知れない。けれども、そなたがいない日々はどんなに孤独なことだろう……」
「ジュリアス様」
チャーリーは、逸らしていた目をビタッとジュリアスに戻す。
「ありがとう。チャーリー。今年も一年、世話になった」
もはやチャーリーに『アンニュイな俺』の気配は微塵もない。
「ジュリアスさまぁ〜、ココ、映画のシーンならヒシと抱き合うトコですよ〜、ヒシッと。それで、チュッチュッ……と」
タコの口で迫ってくるチャーリーの顔面を、ジュリアスは書類ファイルで軽く受け止めた。
「ここは職場だ。たとえ勤務時間外でも、ここでそのようなことは許されぬし、する気にもならぬ」
「んも〜。ちょっとくらいエエですやんかー。さっきは食堂のオバチャンとチュウしはったくせして〜。それとこれとは別、言わはるんでしょーけどっ」
「判っているなら良い。さあ、帰ろう。そなたの望むことは……コホン。また後で」
キラキラキラキラキラキラキラとチャーリーの目が輝く。
「ほんまッ?」
“そやな……明日から冬期休暇に突入やし。今夜はジュリアス様の言うところの房事が理に適う休みの前日なわけやし。一年間のご愛顧を込めてジュリアス様が俺に愛のご奉仕!? もちろん俺の方がご奉仕させて貰ろてもエエんやけどもぉ、ぐふふふ……”
チャーリーの妄想が、トップギアにまで入らぬうちに、ジュリアスは淡々と帰りの車の手配をする。
「チャーリー、先に駐車場に行ってるぞ」
ジュリアスが肩を竦めてそう言うと、チャーリーはアタフタとコートと鞄を抱えて、後を追うのだった。いつものように……。
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