さて、その夜……。濃厚な一年間の大決算……を勝手に期待していたチャーリーは、肩透かしを食らう。いや、房事はあったし、良かったことは良かったのだが……。

 ジュリアスがシャワーを浴びに行くと取り残されたチャーリーは、裸体のままベッドの上で、「くっそ〜、セバスチャンのヤツめ〜」と枕をカミカミしつつ、執事を罵った。まったりと濃厚な夜になる気配は確かに帰りの車の中でもしていたのだ。チャーリーが、運転席と後部座席の間にあるガラス戸をシークレットモードで遮断してもジュリアスは非難しなかったし、そっと手に触れると握り返しもしてくれたのだ。股間に触れようとした時は、さすがにキッと睨みつけられたが、チャーリーが「てへへ」と笑いで誤魔化すと、 珍しく「コイツぅ〜」みたいな笑顔を返してもくれた。
「ああ、そやのに〜、そやのに〜、セバスチャンがあんなこと言うからーー」
 執事セバスチャンは当然の報告をしたまでなのだが……。

「ジュリアス様、チャーリー様、明日は館の大掃除でございます。朝から少々、騒がしゅうございますがお許し下さいませ」
 と、食事が終わって別館に引き上げる時に彼が言ってきたのだ。
「ああ、そうかー。ご苦労さんやな〜」
 アッサリと労ったチャーリーの横で、ジュリアスはすっかり自分も大掃除に参加するものだと思っている。ハウスクリーニングの業者も雇ってあるのだから、ジュリアス様はそんなことはしなくても良いのだとチャーリーと執事が言っても 、「自分の住まう所を自分でしなくてどうするのだ」と引かない。断固として大掃除に参加するとジュリアスは言い張り、掃除開始が午前八時からと知ると…………。
 
「明日の大掃除に備えてメッチャ軽めのえっちになってしもうたやんか〜っ。八時開始やなんて、朝食と身支度の時間を考えたら、起きる時間、会社に行く時間よか早いわッ……うう」
 とジタバタと身悶えるチャーリーがふと見ると、クローゼットの前の椅子にきちんと畳まれたトレーニングウェア一式が置いてある。
「うわ……明日の大掃除に着るつもりにしてはるんや……。そらまあ大掃除なんやし、セーターなんかよりは動きやすいけど、ヤル気マンマンや〜、俺 とのえっちよか大掃除の方が大事なんか……orz」
 と、その時、微かにジュリアスの声がした。シャワーを済ませたジュリアスがパウダールームで体を拭いているようなのだが……。
「鼻歌や……流行の歌とかじゃなくて、なんちゃら交響曲の一節なんがジュリアス様らしいけど……」
 チャーリーは、裸体のままベッドの上で大の字に体を伸ばした。ジュリアスの鼻歌は、タンタンタンタタ……と小気味よいリズムで続き、チャーリーを心地よくさせ、房事の後の程よい疲れと相俟って眠気が襲ってくる。夢と現の中、昼間の騒ぎが断片的に繰り返される。

“バカ騒ぎの忘年会も、一家総出の大掃除も、ジュリアス様にとっては初めてのことで、それなりに楽しい気分になってはるんかなあ……。休暇はまだまだ続くんやし……ま、ええか、今夜はこれくらいで……勘弁したるぅ〜……そのかわり31日の夜、一年の締めの房事は……ムニャムニャ……ぐふ、ぐふふふふふ……除夜の鐘の如く、俺を突いて突いて突きまくり……”
 眠りに落ちながら、よからぬ妄想へと堕ちていくチャーリーだった。

END
 

■あとがき■

 


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