ジュリアスを乗せた特別便が、シャトル運航規約の特例外として異例の早さで事故のあったガンマ域のセクター5軌道人工衛星ステーションへと到着したのはそれから二日後のことであった。
いつもは長距離シャトルの物資供給ポイントとして静かに機能しているだけのステーション内は、
俄に慌ただしくなっている。滅多に使われたことが無かった緊急医療エリアは近隣惑星から医療チームが派遣され、事故対策本部とプレスルームも設置され
た。一番近い惑星からは、いち早く民間機をチャーターしてやってきた報道関係者が、少しでも早く情報を得ようと必死だった。そんなステーションの中を、事故被害者の関係者は、
担当官によってメインコントロールルームのある深層区域にある一室へと案内された。その途中の廊下には、メディア関係者が大勢待っていた。
「どなたが事故に遭われたんですか?」
「今のお気持ちは?」
「何かコメントを……」
カメラとマイクが突き出される。案内人がそれらを押しのけて行く。ふいに、ジュリアスにマイクが差し出される。
「どうですか?」
何がどうなのだ……、ジュリアスは答える気にはとうていなれず、その無神経さに込み上げる怒りを収めるのに精一杯だったため、無言のまま通り過ぎた。レポーターは
、ちゃっかり、「やはり相当、気が立っておられます。言葉も無いようですね。皆さん、悲痛な面持ちで、関係者の控え室に向かっています。ここら先は、ご覧のように立ち入り禁止……キープアウトのテープが貼られており、我々は入れません。緊張感漂う現場からお伝えしました」と告げた。
こんな時、チャーリーがいたなら、「オマエの無神経さに言葉を無くしたんや。俺かて転んでもダダでは起きたくないタイプやけど、場所柄は弁えるちゅーねん!」などと、ブツブツと一人ツッコミが入り、ジュリアスの気持ちも紛れるのだが、いつも傍らにいる彼は不在……。
関係者の為の控え室には、GNNとガンマ域のローカル放送が配信されているモニターが数台置かれ、それを囲むようにしてソファが置かれていた。宇宙が見渡せる大窓の側には軽食や飲み物が用意されている。
「皆さん、最新の情報を報告させて頂きます」
ジュリアスたち関係者が入室し終えると担当者が切り出した。襟元に輝くバッチから彼が主星政府の人間だと判る。
「ここにお集まり頂いた皆様は、事故機に搭乗されていた方の会社関係者の方々……主星星都内の企業の方々ばかりですね……」
担当者はリストを見ながらそう言った。
「主星星都にある企業に、優先的に連絡を付けたのはそっちなんだから、当たり前だろう。早く今の情報を説明してくれ!」
誰かが苛つきそう言った。
「失礼。……こちらも少し対応の仕方がありましてね。つまり事故に遭われた方のご親族とは違い、ここにいらっしゃるのはビジネス上での関係者の方たちですので、冷静に現状を把握して頂ける……ということで、それでは単刀直入にご説明させて頂きます」
担当者の淡々とした態度は、無駄がなく通常のジュリアスにとっては好ましいものではあった。だが、今は違う。冷たい手言い様に心に針を刺されたような傷みがジュリアスを襲う。
「既に発表されているように事故機は、皆さんが先ほどまで乗ってらした政府専用機と同様のタイプで速度最優先のビジネス専用機です。座席部分はひとつひとつブース化されています。シャトルの機体に何らかの損傷、一定レベル以上の衝撃があり、シャトルのキャプテンのロック解除が行われれば、座席部分がフラットになり、その後、前後からシャッターがせり出し、たちまちのうちに座席部分をひとつの大きなカプセルにしてしまう仕組みです」
ジュリアスの前で話しを聞いていた男が「ほう、ではそれが緊急時の脱出ポッドの代わりになるんだな」と感嘆の声をあげた。
「そうです。通常の事故の場合、乗客は乗務員の指示ら従って、脱出用ポッドに乗り込む必要がありますが、事故機の場合、座ってるだけでこのシート自体が脱出用カプセルに変わる
最新システムを搭載しています。そして宇宙に投げ出されたその瞬間から救命シグナルを発しつつ漂います」
その情報は悪いものではなかった。迅速を要する脱出時の時間も短縮できるだろうし、事故による爆発に巻き込まれずに放出されたなら生存の確率は高い。ジュリアスは瞳を閉じて、その様を心に思い描く。事故現場となった宇宙域に漂う幾つもの救命カプセル……その中のひとつにチャーリーが……。
「大丈夫だ……チャーリーは……」
ジュリアスは自分に言い聞かせるように呟いた。
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