チャーリーは頭を掻き掻き話し始めた。 
「えーっとですねぇ……。カフェの設備一式の売却にあたって代金を算出するために現地でチェックして見積もりを出さんとアカンのです。減価償却の計算して、傷みがあって破棄やメンテナンスが必要かどうかもチェックが必要。で、担当者を聖地に寄越して欲しいと言われました」
 そう言って、チャーリーは、またジュリアスをチラリと見た。
「で?」
「カフェ・ド・ウォンの店舗が閉店して備品の類を処分または売却する場合、そういう担当部門があるわけですが、場所が場所やし、設置する時の責任者は俺やったから一番良く知ってるし、俺自身が行こうと思うんです……聖地に」
 チャーリーは、微妙な表情を残したままそう告げた。
「では……形としては出張ということになるのだな。時期はもう決まったのか? そなたのスケジュールの調整を早急にせねばならぬ」
 ジュリアスは手元のスケジュール帳を広げて確認する。
「はい。聖地側は特に日時指定はされていません。早いほうが良いとだけ。丁度、あさっての午後から特に予定が入ってなかったからその日にしました。あんな小さなオープンカフェですし、チェック自体は二時間もあったら終わることなので、この間、聖地では【時の同期】かけてくれはるそうですよ」
 時の差は、主星の一日が聖地でのほぼ一ヶ月になるのだが、それは固定されたものではない。女王試験や守護聖の視察などがあった場合、時の流れは一時的に同一化される。それによって、チャーリーは、協力者として聖地と主星の間を行き来できたのである。
「明後日か。では書類などの準備を急がねばならぬな。そなたの留守中にやっておくことがあれば指示を……」
「ジュリアス様……あのう……聖地には、俺の他に同行者一名」
 チャーリーはジュリアスの反応を見るように、おずおずと言った。
「同行者一名……それはカフェ・ド・ウォン部門の者ではなく…………私のことか?」
「俺は……そのつもりです。ジュリアス様さえお嫌でなければ。俺一人では重いものを動かしてチェックする時、不便やし……。筋から行くと回収部門の者ですが、聖地への出張となると誰が行くかで混乱をきたすやろし、珍しさ、嬉しさ余って万が一、聖地の写真でも隠し撮りするようなことがあったら責任問題やし」
 ただ単に自分に付いてきて欲しいだけの発言でないことはジュリアスにも判った。  
 いつものちょっとした出張と同じ、どうということもない……、そう思わせるような口調で、ジュリアスは、「そうか。判った。明後日の午後は外部からのアポは無いが、時間があればそなたに参加を請う社内の小さな会議が幾つか入っている。ブレーンたちに伝え、キャンセルか、日時を改めるか調節して貰おう」と言った後、再び、手元に視線を置いた。
 チャーリーは、首筋をちょっとポリポリと掻く。
“……やっぱり、ちょっと複雑なお気持ちなんやろな……。俺、無神経やったかな……”と思う。俯いて書き物をしているジュリアスは、チャーリーの視線を感じて顔を挙げた。そして、ふっ……と笑う。
「チャーリー、気にせずともよい。これは仕事だ。出張先がたまたま聖地だっただけ。そうであろう?」
「ジュリアス様ぁぁ〜」
 ホッとした顔にチャーリーにジュリアスは今度はもっと大きい微笑みを返した。
「だが、実の所……。少し心が揺れた。震度2……といったところであろうか」
 澄ました顔でそういう冗談も言うようになったジュリアスに、チャーリーはデレッとした顔で笑った後、すばやくツツツ……と躙り寄り、その手をギュッギュッと握りしめ て、またツツツ……と自分の席に戻っていった。
“ホンマは抱きしめてブッチュゥ〜とキスしたかったけど、そんなことしたら、ここは仕事場だ! と怒られてしまうやん、我慢、我慢……、そのかわり家に帰ったら、思いっきり……ムフフ……。ジュリアス様 の手ェを握って愛の補充をしたところで、さあ、仕事、仕事ッ。”
“チャーリーは、どうしてこう……突飛な動きを何事も無かったようにできるのであろう……”
 
ジュリアスは唖然としつつ、猛烈な勢いで書類を読み出したチャーリーを見つめるのだった。
 

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