13


 日曜日。ジュリアスとチャーリーは朝からシフォン・ファームへと出掛けた。主星北東部ミルフィーユ競馬場にほど近い場所にあり、小さな山の麓に拡がるそこは、林や川、池までもその敷地内に持つ 。入り口近くの豪華なクラブハウスは、高台になっているために、ファームの中央部分が見渡すことが出来た。乗馬クラブのコースも見え、訓練中らしいの馬の姿にジュリアスは目を細める。
「広いですねえ、なんやココ、ちょっと聖地に似てませんか?」
「ああ、私もどこか懐かしいような雰囲気があると思っていたのだ」
「まったく手付かずの自然というわけやなく、ちゃんと整えられた芝や小径があって、そやけど、人工っぽい感じはせえへん……。本物感がありますよねえ」
 チャーリーの言葉にジュリアスが頷く。と、その時、「ありがとう。お褒めに預かり光栄です」と声がした。フィリップ・フィナンシェ、その人である。 乗馬用のパンツとライディングブーツ、ラフなジャケット姿の彼は、競馬場で会った時よりも若く、年相応に見える。 主星の貴族層のお手本のような青眼金髪に整った容姿、“悔しいけど、俺よかちょっとだけ男前…”と思ってしまうチャーリーだった。

「お待たせして申し訳ありませんでした。ようこそいらっしゃました」
「いいえ、早く着きすぎたのはこちらですから」
 フィリップ・フィナンシェから差し出された手を軽く握りしめ、ジュリアスは挨拶をした。
「フィナンシェさん。ウォンです。はじめまして……ではないかも知れませんが……」
「ええ。そうです。前にパーティで、ご挨拶だけは。改めまして、どうぞよろしく」
 手を差し出しつつそう言ったフィリップ・フィナンシェの感じの良い爽やかさに、少々押されつつ、チャーリーも、笑顔を返す。
「ザッと敷地内を案内しましょう。どうぞこちらへ」
 フィリップ・フィナンシェに誘われるまま、ジュリアスとチャーリーは、階下へと降り、クラブハウスのアプローチに停めてあったソーラーカーに乗り込む。オープンカーになっていて後部座席は向かい合わせになっている。 三人がそこに座るとドライバーの青年が、「では参ります」と小声で言った。
「このクラブハウスから左回りに道なりを行きます。まずあちらは乗馬クラブのコースです……1200メートルのコースですから、まあまあ走りごたえがありますよ」
 フィリップ・フィナンシェの説明以前に、二人は感嘆の声をあげながら、辺りを見回している。
「ファーム言うからもっと農場っぽいもんかと思ってたらぜんぜん違いますねえ、そこらのテーマパークより立派で綺麗や。あっ、ジュリアス様、あそこにめっちゃ綺麗な白い馬がいてますよー」
 チャーリーは、フィリップ・フィナンシェの前にもかかわらず、ついそう言ってしまった。強い訛りと、秘書に対するものとは思えない言葉使いに、フィリップ・フィナンシェが反応した。チャーリーは、内心、“しもた……。けど、ジュリアス様がここの会員にならはるんやったら、この先のこともあるしなあ……”と思う。
「あ……いや……まあ……一応、彼は……私よりも年上ですし、実は、秘書職に就く以前に、とあることで師にあたる関係だったこともあり、プライベートな部分では、こんなか感じで……。名前もジュリアス・サマーやし、ジュリアス様って読んでも判りやすいかなーとか……」
 実に歯切れ悪く言い訳をするチャーリーに、フィリップ・フィナンシェが笑う。
「ああ、あります、あります。そういう関係、実は僕も会社で、社長という立場上、研究員を怒鳴りつけたものの、その研究員は大学時代の教授で我が社に引き抜いた方。アフター5に、さっきは申し訳ありません、先生……と頭を下げるようなことがありますよ」
「そっ、それです、それっ。N○VA友みたいなもんですよねーっ。いやー、判って貰えて嬉しい」
「僕たち三人は年齢も近いですし、ここではビジネスの場での事を忘れませんか? フィリップと呼んで頂きたい。なるべく敬語を使い合うこともやめて友人としてフランクなお付き合いをお願いしたいのですが。チャーリーさん、訛りの事も気にしないで下さい。ウチのファームの職員は、他星や地方出身者がほとんどで、むしろ主星標準語を使う者の方が少ないのですよ。このソーラーカーのドライバーもそうです。ねぇ?」
 フィリップ・フィナンシェは首だけを後に回して、運転手に問う。
「げぇ、ぞうでしよ、わだがば、なんぶのジョードナングのだだぐ」
 一流クラブの係員らしく洗練されたデザインのユニフォームを着た青年の口から意味不明の言葉が飛び出した。その後、直ぐさま、その青年は少し笑いながら、「失礼しました。今は、『ええ、そうですよ、私は南部のショートニングの出です』と言ったんです」と言った。今度は意味は判ったがそれでも、発音にはかなり訛りが残っている。
「訛りのある言葉は味があって好きなので、僕の前では普通に喋っても良いと言ってあるんです。無理して言いたいことも言えないのなら本末転倒です。その人にとって一番話しやすい言葉で言ってくれたほういい。それに第一、楽しいですしね」
 ニコッと笑ったフィリップ・フィナンシェの回りを、またまた爽やかな風が吹いていく。

“エエ人や……ものすごーエエ人やんかーー。高収入、家柄、学歴、容姿、総てを兼ね備えた上に、人格も良し……アカン……カンペキや……。いや、別にアカンことないねんけど……”
 そう思いながら「それなら……俺も気ぃが楽になりました。俺のことはチャーリーと呼んで下さい」とあえてきつめの訛りでチャーリーは答えた。
「ありがとう、チャーリー。ジュリアス、貴方もどうかお気楽に」
「では、私もフィリップと呼ばせて貰います」
 ジュリアスがそう言うと、フィリップ・フィナンシェは、嬉しそうに頷いた。
 その時、ドライバーの青年が、「フィリップざま、ゴーズのぢがぐまでいぎまずが?」
と小声で問うた。
「いんや、ごごばずどおりじ、どりあえばず、グルッとぜんぶばざぎにまばろば」
 フィリップ・フィナンシェは青年と同じような訛りで答えて、「なんとなく覚えてしまったので、時々使うことにしているんだ」とクックッと笑う。容姿とのギャップに耐えきれずジュリアスとチャーリーは吹き出した。

“うわー、かなわんわー、その上、お茶目さんやないかー。俺とキャラがかぶるやないかーー、俺もなんかここらで笑いをイッパツ、かましとかんとアカン!”
 と妙な気合いが入るチャーリーであった。その後、彼らを乗せたソーラーカーは、ゆっくりと敷地内を周り続けた。フィリップ・フィナンシェの気取りのない、それでいて上品な案内と、ドライバーの青年とのちょっとした掛け合い、彼らに負けまいとするチャーリーの軽妙な語り口、そして何より、このメンバーの中で一番年上で、高貴な雰囲気のジュリアスが涙を見せんばかりに笑っている事によって、元のクラブハウスへと到着することには彼らの仲はすっかり良い感じに出来上がっていた。

 クラブハウスの二階のテラスで、軽い飲み物を飲んだ後、フィリップは、ジュリアスにコースに出てみるか、と尋ねた。見学だけと思っていたジュリアスは驚きつつも嬉しさが隠せないでいる。
「乗馬服やライディングブーツなら貸しますよ。予備のものが未着用で幾つか置いてありますから。たぶん僕とサイズは同じくらいかな? チャーリー、君もどうだい?」
「いや、俺は乗馬歴がないんで、いきなりコースなんか皆さんのご迷惑。できればこのクラブハウスで見学させて貰ってエエやろか? その方がジュリアス様も思いっきり、馬に乗れるでしょ?」
「ありがとう、チャーリー、すまぬな」
「いいえ。久しぶりやし、楽しんできて下さい。ここのテラスからやったらコースもよう見えるし」
 二人が話している間に、フィリップは、ロビーへと戻り、テキパキと係の者に指示を与えて、乗馬服に身を包んだ教官らしい初老の男性と、このクラブハウスの執事 を従えて戻ってきた。
 「こちらはこのクラブの執事。こっちの彼は、ウチで一番古参の教官」と紹介した後、「ジュリアスは、馬術歴は二十年だそうだから、お教えすることはなに もない思うから、コースやクラブの規約などご説明申し上げてくれ」と言った。
「承知いたしました。ジュリアス様。お着替えが済みますまで、下のアプローチで馬を用意してお待ちしておりますので」
「ここから直接、馬でコースへ?」
「はい、このファームは馬優先で設計されておりますから、基本的に移動は馬で行います」
「では、ジュリアス様、更衣室にご案内いたしますので、こちらへ」
 執事の後に続くジュリアスを見送りながら、チャーリーはまた複雑に心境になりつつあった。

“うわーー、ジュリアス様、嬉しさのあまりスキップしそう……ジュリアス様、仕事や主星での生活に慣れるのが先決や……言うて我慢してはったもんなあ。俺、パートナーやのに配慮が足らんかったわ……ゴメンネ、ジュリアス様”

「チャーリー、僕も他の会員の方たちに挨拶があるから、少しこの場を離れさせて貰う。誰か担当を付けようか?」
「いや、ここでゆっくりさせて貰いますから別に誰も。お気使いなくー」
 チャーリーは、コースが一番良く見える位置に置いてある木製のベンチに座り直した。
“ふうー。しかし、エエとこやなあー、星都からそれほど遠いこともないのに、こんな自然いっぱいの所があったなんて。ウォンの館もそれなりに広いし敷地内に林も池もあるけど、レベルが違うわ。そらこっちはファームなんやし当然カモやけど。リゾートホテルに滞在してる気分やなあ”

 チャーリーがしばらく和んでいると、先ほどの教官と乗馬服に身を包んだジュリアスが馬に乗って、コースに向かっていくのがすぐ近く見えた。チャーリーは立ち上がり、テラスのてすりから身を乗り出さんばかりにして見る。
“緩やかに束ねた金の髪、ウェストがやや絞り込まれた黒いジャケットに、ピッタリした乗馬パンツ、黒いライディングブーツ……似合う、似合いすぎるぅぅ。もー乗馬服着せたら宇宙一似合うぅぅ〜。カッコエエ〜、ホレボレするわ〜、一分の隙もない所がかえってセクシーや〜……ああっ、乗馬服なジュリアス様と馬な俺のプレイなんてどやろ? “チャーリー、そなたは私の愛馬だ、どうどうっ。そなたは本当に乗り心地が良いな、どうどう。それーそれっ、私の鞭を受けるがいい。よい子だ……褒美にニンジンをやろう……私のな……” クーッ、 絶対、そんな事言わはらへんのは判ってるけど〜。痛いのは嫌やけど、あのジュリアス様の姿やったら、踏まれてもエエ、ムチでしばかれてもエエわ〜、うわー、俺、ヘンタイっぽいカモ〜”
 突如として妄想スイッチが入ったチャーリーの、その邪な気配に気づいたのかジュリアスがふと振り返った。そしてテラスから落っこちんばかりのチャーリーに姿に、笑顔を返し、同時に鞭を持った手を軽く挙げた。
“出た! 必殺の微笑み〜、ジュリアス様〜”
 思わず投げキッスをしそうになるチャーリーは辛うじてそれを思い留まり、ブンブンと手を振るだけにした。
 ジュリアスの姿が小さくなり、やがて一旦、コース付近の木立の中へと消えた。その後、しばらくして、ゆっくりとコース上を馬を歩かせているジュリアスの姿が現れる。チャーリーのいるテラスからは、その姿形から、ジュリアスだ……と判別できるほどの小ささだが、他の者とはやはりどこか違って見える。半時間ばかりそうしてジュリアスの姿を目で追っていると、そこにフィリップが戻ってきた。
「一人きりにさせてすまない。ジュリアスは……ああ、あそこだ、遠目からでも姿勢が良いしすぐに判る。美しい騎乗スタイルだね」
 そう言いながらフィリップはチャーリーの横に座るために近づいて来た。とその時、先ほどの教官とはまた別の者がやってきて、フィリップに声を掛けた。
「フィリップ様」
「君か? どうしたんだい?」
「あの方……あのジュリアス様は、どなた様で?」
「どういう意味だ?」
「あの方、クラッシック・カスタード・スタイルの乗馬をなさいます。それはもう完璧に」
「完璧って?」
「あれほど完璧かつ優雅なクラッシック・カスタード・スタイルをなさる方を私は知りません。というか……あのスタイルのごく一部しか見たこともないので、完璧と申しましても実際の所判らないのですが、文献で見た様式から推測すると……そうだろうと……」
「それほど……なのか?」
「まったくもってそれほどです!」
 教官はあきらかに興奮しているようだった。ジュリアスが褒められているらしい……ということしか判らないチャーリーは、おずおずと「あの〜、クラッシック・カスタード・スタイルってなんですか?」と尋ねた。興奮冷めやらぬ教官は、客人がいたことに気づき、「失礼いたしましたっ 。また後ほど……」と慌てて一礼し去っていった。
「クラッシック・カスタード・スタイルというのは、主星の古い時代の乗馬に関する作法の事なんだよ。大きな式典の時……そう、例えば、他星の王族をお迎えする時や、主星代表議長の選出式の時や、先日の聖地杯のような重賞レースの前に、フロックコートにシルクハット姿の正装をした騎手が出てくるだろう?」
「ああ、確かに。先頭で優雅に乗ってはりますよね」
「あの時の騎乗スタイルが、クラッシック・カスタードというんだが、それはかなり簡略化れたものなんだ。本来は、手綱の持ち方、その位置、腕の角度、また乗り降りの際の姿勢、ありとあらゆる決め事がある。大昔、貴族の子弟は皆、そのスタイルを習得するのが常とされたそうだが、ここ二百年の間にそのスタイルは廃れて、簡略化されてしまった。小さい頃から何年、何十年と掛かって習得 しなければ身に付かないスタイルが時代に合わなくなったんだよ」
「へえ……。で、ジュリアス様は、それを完璧にマスターしていると……」
「…………」
 フィリップはチャーリーの横に座ると、ジッと彼を見た。
「チャーリー、彼は一体、何者なんだ? 今は文献にしか残されていない様式の乗馬をマスターしていることもそうだが、主星杯で逢った時からおかしいとは思ってたんだ」
「そ……そうかなあ、おかしい……かなあ……ジュリアス様も貴族の出やから……」
 すっとぼけるチャーリーだか、もちろんフィリップは納得していない。
「彼が貴族層の出身なのは見ればすぐ判る。主星杯で君と一緒にいるのを見た時、友人を連れているのだな……と思ったんだ。君の事は……それなりに知っていたから挨拶をしようと思って近づきかけた時、人波に押されてジュリアスだけが近くに来た。それで声を掛けたんだ。そしたら、ジュリアスは君の秘書だと言う……」
「あー、どっちかいうとジュリアス様の方が総帥っぽいし、まあ意外に思われても仕方ない……」
「話ているうち、僕が乗馬クラブやファームを経営していることを言うと、会員なるにはいかほど費用が掛かるのだろうとジュリアスが聞いたんだよ。シフォン乗馬クラブの会員権は三千万 主星ドル、ウチのファームでの子馬の一頭の買い付け額は平均五千万、登録料や税金など諸経費は含めない。かなりの高額だと思うが、ジュリアスは驚くようすもなかった。良かったらウチのファームの見学にどうですか? と言うと、どこかの乗馬クラブに入りたいと思っていたし、出来れば自身の馬も欲しいと思っていたと言い、実にアッサリと、よろしく……と言ったんだ」
「ジュリアス様は馬に目が無いからなあ」 
「いかに一流企業の会長秘書職といえど、簡単に払える金額じゃないよ。元から彼が資産家で無い限り」

“確かにそうや……会社からジュリアス様に支払われる給料は、年俸にしたら手取り一千万くらい……そやけど信託銀行に目も眩むぼとの財産がある……”
 チャーリーは興味本位で、守護聖の退職金がいくらなのかと尋ねたことがある。するとジュリアスはこう言った。
『退職金のようなものは無いのだ。守護聖になった時、主星の通貨にして一千万主星ドルが支払われる』と。 聖地の一流企業の重役クラスの者でさえ退職時には、五千万主星ドル程度は手にするのだ。それが、たった一千万?!と驚いたチャーリーにさらに、ジュリアスは言った。
『うむ。それをそのまま主星銀行に入れておくのだ。途中である程度の金額になれば、何か利率の良いものに自動的に組み替えるシステムになっているらしい』と。
『そらまあ、二十年も一千万主星ドルを預けっぱなしにしてたら、利子がそれなりに……』と言いかけたチャーリーは、聖地と主星の時間差に気づき、絶句した。

「そやからジュリアス様は貴族の出なんやから家の財産が……あるので……」
 なんとか誤魔化そうとすればするほど、フィリップは不審がる。 
「主星の貴族の家名にサマーというものは存在しないよ」
「…………あ、主星やのうて、別の……何という星やったかな……忘れてしもうたけど……その余所の星の大貴族……っていうか王族……らしいような……。まあ、とにかく、そんなこんなで、縁あって俺と知り合って、主星に来てもろたんですわ。で、まあ、慣れるまでしゃーないし、俺の秘書でもしてもらおかー、と言うことに」
 なんとか辻褄を合わせようとするチャーリーだが、フィリップは引き下がらない。
「……僕は家柄や資産家だというだけで会員を募ってはいないんだ。本当に馬の好きな、マナーの弁えた人だけに声をかけている。初対面のジュリアスを誘ったのもその為だ 。けれど……」
「そやったら……ジュリアス様がどこの誰か詳しく知らんでもええわけや。現住所と勤務先、身元保証人はチャーリー・ウォン、ここの会員になるのにまだ何か必要?」
 いい加減、適当に言い繕うのに疲れてきたチャーリーは少し苛立ってそう言った。
「ジュリアスの現住所は君の館になっているようだけれど……君たちは……それに、ヒヒンジュリアス……ジュリアスの名前が付いてるのは……」

“いやー、バレた? 俺ら実はメッチャ、ムッチャ、ステディな仲やねん〜、ハッキリ言うとデキてるってこと〜。ついでに言うとくと、ジュリアス様は、なんと元・光の守護聖様やねん。そやし、浮世離れした気品はそういうことやねん。そのなんとかスタイルちゅーのも聖地でバッチリ身につけはったんやと思うわ〜……って言えたら話早いで!  俺かてそう叫びたいわ!”

「フィリップ。フランクな付き合いは嬉しいことやけど、プライベートな事をベラベラ喋るのには少しばかり早すぎると思えへん? ジュリアス様の現住所が俺の館になってるのはそんなに不審なことやないと思うけど。 前の筆頭秘書のザッハトルテという男も、一時、ウチの館に住んでたこともあるし、執事から庭師、使用人……ザッと五十人ばかり、全部俺と同じ住所や。 それと……ヒヒンジュリアスのジュリアスはまったくの偶然」
 チャーリーは、声のトーンを抑えて静かに答える。いつもは面白おかしい訛りが、かえって凄みがあるように聞こえる。
“ジュリアス様のこと、詮索が過ぎるようやったら許さへんで。悪い人やないのは判ったから、長く付き合ううちに、いろんな事を話すようになるかも知れへんとは思ったけど、 ジュリアス様のことは、主星政府認可のトップシークレットや。会って二回目にアレコレ打ち明けるほど、俺、カモ〜ンな性格違うでっ ”

 それまでヘラヘラしていたチャーリー・ウォンのシリアス・バージョンを見てしまったフィリップ・フィナンシェは、「ああ……」と肩を落とし、やるせないような溜息をついた。
 

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