ジュリアスは、乱暴にチャーリーを押し倒すと、その首筋を噛みつかんばかりに吸った。
「ちょ……、ジュリアス様、いきなり激しいわー。もしかしてジュリアス様も、そのぅ……溜まってはったとかー、うわーー」
いつもの調子で照れ笑いしつつチャーリーは言う。だが、ジュリアスは何も答えずキスの雨を降らせるばかり。
“な、なんや……いつもやったら、「うるさいぞ、チャーリー」とかちょっと笑って窘めはんのに? あ……そ、そんなトコ……ごっつぅ効くぅぅ〜。あっあっ、も、もう下腹部にっ。い、いきなり、そ、そんなっ!? はうっっ”
ジュリアスの荒々しさに、チャーリーは、たじろぎながらも喘ぐのだった。
「も、もう、俺……、そんなに吸わ、舐めるわ、しはると〜っ、ジュリアス様〜、持ちません〜」
と叫んだ後、チャーリーは「あっ……あ……はぁ〜」と溜息を付き、早速と達してしまった。開始五分、テクニカルノックアウトのようであった。ジュリアスは、口端に付いたものを手の甲で拭う。
「フン……たわいもない。早かったな」
大の字になってぜぇぜぇと肩を上下させているチャーリーに向かって、ジュリアスは冷たく言い放った。その言い様は、いつもの彼とはまったく違っていた。背筋にぞくり……としたものを感じ、チャーリーは、とっさに半身を起こした。
「では……次は私を愉しませて貰おうか……」
ジュリアスの目が据わっていることにチャーリーは気づき、思わず首を左右に振る。
「ほう……。自分だけが愉しめればそれで終わりとはな」
「い、いや、そんなことは……」
ジュリアスの手がチャーリーの頬に伸びる。ツーーと触れた後、彼の手はチャーリーの髪へと移動し、それを鷲掴みにした。
「い、痛ッ」
とチャーリーが思わず叫んでもジュリアスは放そうとせず、髪を掴んだまま自分の方に近寄せた。そしてチャーリーを乱暴に押し倒すと、その背中に馬乗りになる。
「ジュリアス様、ど、どうしはったんです? ジュ…リアス……さ……、ひっ」
ベッドサイドにあった酒が、自分の背中に垂らされてチャーリーは跳ね上がらんばかりに驚いた。背中からもっと下へ……と酒が注がれる。そしてジュリアスの指が、チャーリーの双丘の合間へと押し入る。
「く……酒を潤滑剤の代わりにしようと……、ジュリアス様、やめ……」
チャーリーの言葉など耳に入らぬ様子で、ジュリアスは一気に彼を貫く。
「痛ッ、な……なんやねん……ちくしょ……う……」
さすがのチャーリーもジュリアスのやり方に怒りを露わにした。
「け、けど……こんな……」
強引に乱暴に突かれながらチャーリーは、必死で抵抗する。ふと挙げた顔の、視界にギラリ……と光るものが見えた。
天球儀ーーーー。
薄暗い部屋の中でそこだけが浮かび上がって見えている。
「ま、まさか……やっぱりアレの……せいでジュリアス様……がヘン……に?」
チャーリーは、なんとかジュリアスの表情が見えるように体を捻ろうとするが、肩を強く押さえつけられていてままならない。
「誰が変だと?」
背後からジュリアスの声が問う。
「ジュリアス様……天……球儀のせい……で、あれを隠さんと……」
「隠す? どうして? あのように美しいのに? ほら、チャーリー、そなたもよく見るがいい」
クックック……と笑いながらジュリアスは、チャーリーの髪を片手でまた引っ張った。ジュリアスのモノが入ったままの彼の上体が仰け反る。
「あのブラックオパールは本当に惑星のような模様をしている……主星のような」
天球儀は妖しく煌めいている。
「ほら……チャーリー、美しいだろう……」
今度は甘さの混じった声でジュリアスは囁く。天球儀から顔をそむけようと抗うチャーリーの力がフッ……と緩み、意識がぼうっっとしてくる。
「ええ……。ホンマ。ものすごーー綺麗です……ね」
チャーリーの目に天球儀が映っている。
“み、見たら……アカン……”
なんとか目をギュッと閉じるとチャーリーの意識が幾分クリアになった。と同時に快感と今の状況に対する嫌悪感が襲ってくる。
「くそっ、気持ちエエんか、悪いんかーわからんーー」
毒づいたチャーリーの耳の側で低音が響く。
「良いに決まっているだろう? ほら……」
ジュリアスが前後に揺れ、扇情的な音がチャーリーの中からしている。いつもなら、“いやーん、俺とジュリアス様のえっち〜”などと思いながら楽しく高みへと登り詰めることができるのに……とチャーリーの目に悔し涙が浮かんだ。そんな彼の気持ちなどお構いなしにジュリアスは彼の肩を押しつけ、腰を持ち上げると、動きを激しくした。思いのままに。
“もう何も考えんとこ……。これはジュリアス様なんやし……俺の体は嫌と言うてへんやん……とりあえず……”
チャーリーは、自分に言い聞かせて体の力を抜いた。凄まじい快感が襲ってくる。かつてないほどの強い快感なのに、それを悦ぶ気持ちだけが取り残され、チャーリーはシーツを握りしめて、声を殺して息を継いだ。ずるり……と自分の中からジュリアスが去っていくのを感じた後、チャーリーは、俯せになったまま果てた。しばらく待っても「チャーリー、大丈夫か?」と言うジュリアスの優しげな労りの声は聞こえない。水なのか酒なのか判らないが、何かで喉を潤すジュリアスの気配だけがしていた。「そなたも飲むか?」とも言わない。
「……くっ……」
チャーリーは、なんとか寝返りを打ち仰向けになった。それを冷ややかにジュリアスが見つめている。
「なかなかそなたは具合がよい。それに……今宵は何か私に対して不満でもあるような目つきだ。たが……それがまた……そそる」
「そ……れは、どう…も」
チャーリーの喉はカラカラで、まだ息が乱れている。情け容赦なくジュリアスは、チャーリーに覆い被さった。
「な、何をっ」
一夜のうちに二度ジュリアスを迎え入れる……というのは二人の間では無かったことだった。長く会えず気持ちが昂ぶった時でも、それは回数ではなく、互いを愛おしむような触れあいの中で、濃厚なものとなっていくのみだった。
「ジュリアス様、もう止めましょう。ホンマ、今日ちょっとおかしいですよ。ね?」
「黙れ。誰の忠告も受けぬ」
チャーリーの懇願に一笑した後、そう言うとジュリアスは、また自分勝手に動きだした。チャーリーが少しでも抵抗するような仕草を執ると、髪や肩を乱暴に掴まれる。そしてそれがよけいにジュリアスを煽るらしい。思わず「それはないやろ……」と呟いてしまうような無理のある姿勢でジュリアスが自分の中に再度入ってきた時、チャーリーは完全に抗うのを止めた。そうしようにも体中が痛んで動かなかったのと、とことん心が冷え切っていたからだった。
「大人しくなってしまったな。そう……素直に従えばよいのだ」
耳元でジュリアスの声がしてもチャーリーは反応せず、虚ろな目をうっすらと開けて、天球儀を見た。ジュリアスに激しく突かれて揺れ出した体を肘をついた片手支えて、側にあった枕を掴む。
「ちくしょうーーっ」
チャーリーは叫ぶと枕を天球儀に向かって投げつけた。ごとん……とサイドテーブルから落ちた音がする。壊れてはいないが、これで二人の視界からは見えなくなった。その瞬間にジュリアスは達し、はあはあと荒い息を立て横たわった。
「ジュ……リ……アス様?」
チャーリーは自分の横に、倒れ込んだジュリアスを気遣うようにその名を呼んだ。返事はなく、そのまま眠りに落ちていったようだった。チャーリーにも眠気が襲ってくる。ダラリ……と力を抜いた手がベッドの縁から落ちて何かに当たった。先ほど落とした天球儀だった。チャーリーは眠気の中で体を起こして、それを掴むと、「このクソッタレが!」と毒づき、壁に向かって思い切り投げた。中心のブラックオパールを囲んでいた金銀線が砕けた音がしたが、チャーリーの耳にはもうそれは聞こえていなかった。投げたと同時にジュリアスの横に彼は倒れ込み、深い眠りに落ちていたのだった。
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