日中の日差しは、まだきついが、時折、涼しい風も吹き、季節が変わりつつあることを感じささせる、夏のおわり……八月三十一日。
「
今、そっちから割り込みで回ってきた、今日の三時からの客人のことやけど……」
チャーリーは、副社長室のザッハトルテをモニターに呼び出した。きちんと整理整頓されたデスクに座って、書類を処理しているザッハトルテが映し出される。
「“オーガスト・J有限会社”の事ですね?」
「そうそう。その“オーガスト・J有限会社”ってどんな会社? データが見あたらへんのやけど……。新規取引先? 何で、割り込みまでかけて、いきなり俺と逢うの? よっぽどの新開発製品でも持ってる会社?」
チャーリーは、午後の休憩時間が削られて、不満顔で、ザッハトルテに文句を言った。だか、彼は、某筋からのコネだが、将来性のある優良企業なので
、逢うだけ逢ってやって欲しいのだと、クールに対応した。
「某筋って、どの筋? 何や? お茶を濁したようなその言い方は〜。まあ、ええわ。ホンマに挨拶だけやで。アポ取りの時間は十分間だけやし……、名刺交換だけで
」
副社長室のザッハトルテとの社内モニターホンを切ったチャーリーは、「ふうん〜」と言いながら辺りを見回した。ジュリアスは、数分前に席を立ったまま戻って来ていない。時計は、二時五十五分を示している。ともかく、その“オーガスト・J有限会社”の社長との面会に応接室へと向かわなければならない。
その時、チャーリーのデスクの上の、音声だけの社内ホンが、軽やかな電子音をたてて鳴った。
「はい?」
「社長、第十応接室までお越し下さい。……来客です」
「あ、ジュリアス様〜、なんや、急なアポの入ったこと、知ってはったん? もうそっちに行ったはるなんて、さすがやなあ。俺もすぐ行きます〜」
チャーリーは、ネクタイを締め直し、第十応接室へと向かったのだった。
そこは応接室の中でも、一番狭く
、巨大な本社ビルの正面玄関に、ほど近い場所にある。営業マンが他社の者とちょっと打ち合わせに使う程度の簡素なもので、部屋専属の係の者もおらず、
最上階にある社長室に居るチャーリー自身が、この応接室を使うことなど滅多になかった。
だが、中小企業の代表と、とりあえず名刺交換して、さっさと追い返してしまうには、相応しい応接室ではあった。
コンコンとノックし、扉を開けたチャーリーは、こぢんまりした応接室の中に、ジュリアスしかいないことが判ると小首を傾げた。
「あれ? オーガスト・J有限会社の社長さんは?」
不審な顔をしているチャーリーに、ジュリアスは、スッと立ち上がると、一礼し、名刺を差し出した。
「オーガスト・J有限会社……代表取締役……、ジュリアス・サマー」
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