〜サバイバル キット〜
というわけで、ヴィクトールとオリヴィエは、惑星トラジャに降り立ったのであった。
「……ヴィクトール、ホントにここで間違いないんだろうね?」
「エルンストの話ですと、次元回廊の微調整が効かないそうです。やはり取っ手のひび割れが原因のようですな。座標が0.01狂っただけでも、実際には数メートルの誤差が生じますから……。私が前に惑星調査の為、軍機で、降り立った時に見つけたカラーシレンコォーンらしき岩場との誤差を、計算してみます……」 「方向的には間違いはありません、ただ少し距離に誤差がありました。少し歩かないといけません」 「重そうな時計……うわ、この目盛りってば、もしかして、これ湿度とかも判るようになってンじゃない? どっか押すとナイフとか爪切りとか出てきそう……」 「爪切りは出ませんが、ナイフなら、ここをこうすると……」 「マジ……? ああっ目眩がしそうな腕時計……それって軍の支給?」 「はい、対内陸戦用のものです。もちろん普段はしませんが、今回は、護衛ということでしたので」 「護衛ねぇ……いらないって言ったのに……ジュリアスのヤツ」 「まぁ、そう仰らずに。万が一ということもあります。さぁ、急ぎましょう」 遠くでキラリと何か光った様に感じた彼は、ポケットから薄いプレート状のモノを何枚か取り出した。それは手帳ほどの大きさで薄さは、プレートによってマチマチだったが、概ね一センチ以下のものだった。そのうちの一枚を選ぶと、ヴィクトールは、慣れた手つきでカチャリとロックを外すと、そのプレートは、折り畳み式の簡易な双眼鏡に早変わりした。 「ああ、光ったのは、湖面ですよ、オリヴィエ様、岩場も見えます、ついたようですね」 「うわぁぁ、綺麗なとこじゃないかー」 ◆◇◆ ヴィクトールの言っていたその岩場につくと、オリヴィエは感嘆の声をあげた。切り立った崖一面が虹色に輝いていたのだ。 「カラーシレンコォーンに間違いありませんか?」 「ああ、間違いないよ〜。すっごく綺麗〜」 「少し大きな音がします。お下がり下さい」 「ね、ヴィクトール、ちょーっちだけ、これくらいでいいから別に切り取ってくれなぁい?」 「それはできません」 「泥棒ーッ、石泥棒だーっ」 声の主は、まだ幼い子どもで、長い髪はしているものの服装の様子から男の子だと判った。民族衣装風の軽やかな布をふわりと肩から腰あたりにかけて纏い、首から、カラーシレンコォーンで作った細かな細工のペンダントをしていた。オリヴィエの目はそこに釘告げになった。 「見てみなよ、ほらっ、あんな小さな子が首から、カラーシレンコォーンのペンダントしてるんだから安全だよ、すっごい細かい彫り細工がしてあるよ……ねぇ、それみせて〜」
「何仰ってるんです、オリヴィエ様。そんな場合じゃないでしょうっ。ぼうや、おじさんたちは石泥棒ではないんだ。これには事情があるんだが……」 「おじさんたち……たちってトコにすごぉぉく引っかかるワタシ。とにかく、坊や、ワタシたちは石泥棒じゃないからね。もしもこの石に所有権とかあるんなら、ちゃんとお金はお支払いするし。ね、この岩場の持ち主を知ってるなら、教えて?」 オリヴィエは、子どもに躙り寄りながら、穏やかにそういうと、彼の目線に合わせてしゃがんでやった。 「石、とても神聖。皆のモノ、村のモノ……」
「そうかぁ、じゃ、村のね、エライ人のとこに案内してくれるかなぁ、石を貰ってもいいかって、相談するからねー。ん〜とっても綺麗だね〜、このペンダント、いいなー、誰が作ったのかなー?」 「ヒッ!」 「泥棒……泥棒、石、取った。首飾りも取ったーっ」 「あ、待って、待ってったら〜ああ〜行っちゃった」 「仕方ありませんな。あの子どもの逃げて行った方向に行ってみましよう。村長のようなものがいたら交渉してみましょう」 ヴィクトールとオリヴィエは、再び森の中へと戻って行った。だが、足取りは遅い。行きと違って、ヴィクトールはカラーシレンコォーンの固まりを持っていたからである。 「思ったより質量がありますな、この石は」 ヴィクトールはまたもやポケットから、例のプレート状のモノのうちの一枚を取り出し、蓋を開けると中から、アンテナを引き出して、プレートごと耳に押し当てた。そして神経をそこに集中した。 「! オリヴィエ様、大変です。村人が集団になって我々を捜しています、隠れましょう」 「なんだって? 事情を話せば……」 「次元回廊を開きたいけど、連中近くまで来てるの?」 ヴィクトールは、また胸ポケットからプレートを取り出した。慣れた手つきは先ほどと同じで、そのプレートの細かいスイッチを捜査しながら、クルリと四方を探るように歩き回った。 「ああ、ありました。こちらです」 「うわっ、ち、ちょっとっ、やめてよっ あ、あれっ? 何これ……中は空洞? 洞穴?」 「そうですね……センサーの数値から見ても、洞穴というより、洞窟と言った方がいいような大きさです。お待ち下さい。私が先頭になります」 ヴィクトールは、今度は、ライターをつけて、オリヴィエの前に回った。 「そうです……あ、お待ちください」 オリヴィエは今度は何かと覗き込んだ。ヴィクトールはプレートの表面についているスイッチをカチカチッと押した。すると、ぼんやりとその表面が輝きだした。 「発光ボードです。三時間は持ちます」
「シッ。連中に見つかったようですな。仕方ありません……。いいですか、私が連中を食い止めますから、オリヴィエ様は、洞窟の奥に走って下さい。さきほどの空間探査センサーによると、奥にかなり広い空洞があります。そこなら次元回廊が開けると思います」 「いたぞ!よくも神聖なるカラーシレンコォーンを! その上、王子のペンダントまでもっ盗むとはっ」 「ペンダントは返すよ、悪かったってば、だけど、どうしてもこのカラ〜シレンコォーンは必要なの。わかって……」 「ダメだよ、ヴィクトール。この人たちが悪いんじゃないんだ」 「ごめんね、皆。いつかきっとアンタたちのとこに謝りにくるから、とりあえずは聖地に還らせてね」 「夢のサクリア……?!」 「サクリアはね、ホントはこんな風に使うものでもないし、目には見えないんだけど、もしもの時、守護聖の身を守るシールドでもあるんだよ……」 「まるで、ATフィールド……」 (アンタッ、そりゃ、作品が違うよッ) 一方、男たちは、それ以上、オリヴィエに近づけないでいた。口々に、この奇跡に何かを言おうとするのだが、それさえもままならない。 オリヴィエの背後にいて、サクリアを浴びなかったヴィクトールでさえ、唖然として立ち尽くしていた。 オリヴィエは、例のペンダントをそっと地面に置いた。 「これは返すからね。、さあ、今の間に奥へ、走ろう、ヴィクトール行くよッ」 洞窟の奥、一段と広くなった場所で、オリヴィエとヴィクトールは、次元回廊を開いた…………。 |