「そうだ。その星は些か変わっていた。惑星全体に力を及ぼしているのは、科学力の発達した先進国で、それに追随するように幾つかの国がある。辺境域にあるが主星型の非常に発達した星だ。それは特に珍しいことではない。だが、その星には、ほとんど原始そのままの生活をしている国が幾つも混在していたのだ。灯りさえも蝋燭を使うような。驚くべきことは、その国の民たちは電力の存在を知っているのに、だ」
「あえて使わぬ、と言うのだな」
「必要なものは自然の中から調達する、ということだ」
「それで先進国との関係は上手く保たれているのか?」
 ほとんど科学力に頼らず自然と共存する道を選んだ星は、辺境地に幾つか存在しているが、一つの星の中で、相反する思想の国が共存していくのは難しい。
 
「科学力に頼らない道を選んだ国々は、後進国とは呼ばれず、その星の言葉で“賢明なる者”を意味するサファラと呼ばれてその意思を尊重されていた。多くの事例のように、かつては大国の植民地となってしまうこともあったという。文化や宗教の違いが戦いの原因となり、何度も大戦が起こったと。だが長い時が過ぎ、その星の人々は互いを尊重し合う道を選択したのだ。先進国に習うやり方ではなくそれぞれに……」
 私はその希有な星を心に思い描いた。高層ビル群の市街地の空をエアカーが行き交う一方で、馬道すら無い土草の獣道を裸足で歩く人々……。互いに良いと思う方法で生きていくことができたなら、それにこしたことはない。

「何百年かの間、その星では戦争もなく平和に保たれていた。だが近年に至って新たな問題が起きた。いわゆる環境問題だ。先進国のもたらす環境汚染が星全体に影響を及ぼし始めたのだ」
「……なるほどな」
 よくある話しだった。主星も少なからずそういう経過を辿っている。
「私が出掛けることにしたのは、この星の行く末を決定する長期に渡るサミットを垣間見るためだった」
 ジュリアスが各惑星の統治方法に興味を持ちだしたのは、いつの頃だったか……。文明を持った星の歴史は、概ねよく似たパターンを辿ってゆく、その政治形態も然り。それなのに貴重な休暇を割いてまで出掛けて何が面白いのか……。
 
「サミットは当初先進国の会議場で行われていたが、幾つもの議題が難航していた」
「深刻な環境汚染に対処すべく新たなシステムが開発される。自然との共存を謳いながら、科学の力にも頼らざるを得ないのだ。最終的には、蝋燭を灯し裸足で暮らしていた人々の生活は変わっていくのだ」
 私がそう言うとジュリアスは少しだけ笑った。この話の結末を知っている者の知った風な笑いだ。

「最終的にサファラ側が提示したのは、会議の場を移すということだった。巨大な岩山脈を取り囲む砂漠地帯の小さな村へと舞台は移された。宿泊施設は一切なく特別に着陸許可の出た国内シャトルがホテル代わりとなって……」
 ジュリアスはそれからその場所の様子を丁寧に語り出した。延々と続く砂丘に囲まれた岩山。それが創り出す雄大な影に抱かれたささやかな人の居場所……。僅かに草地と水辺に集まる生き物たち……。
  他の人気もなく、華美な装飾や家具の無いこの部屋では、ジュリアスの声がよく響く。深く静かな声が、無駄の無い美しい言葉使いで淡々と……。

 幼い頃からジュリアスは、人に何かを説明するのが上手かった。自分の中でしっかり把握なさっているからでしょう、と教育係の者がよく褒めていた。私はというと、ポツリ、ポツリと詰まりながら言うものだから、そざかしジュリアスは横で見ていて歯がゆい思いをしていただろう。
 ある時……そのジュリアスの語り口がおかしくなった時があった。私のように……とまではいかぬが、言葉の途中で詰まり、何度も咳払いをする。声が掠れる事もあった。私はどうかしたのかと心配したが、それは変声期特有のものなのだと教えられた。はきはきとして綺麗なジュリアスの声が変わってしまうのが悲しく思われた。少ししてジュリアスはまた以前のように流暢に話しだした。声は低くなったが、違う美しさが備わった……。自分の変声の事は何も覚えていないのに……。もっともそれが克明に判るほど私は言葉を発していなかったが。
 

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聖地の森の11月 黄昏の森