第四章 6


  謁見の間には、先ほどの元老院の者たちが、ジュリアスを待っていた。オリヴィエが一緒なのを知ると、末席に座っていたものが慌てて、彼の為の椅子をもう一客用意し、ジュリアスの横に置いた。随行していたオスカーは、扉の横にそっと控えた。
「この度のモンメイとの一件について報告をする前に、オリヴィエから一言、皆に挨拶をとの事だ。彼の立場については、まずはっきりさせておきたいが、我が国とモンメイは同盟国同士である。よってオリヴィエは、両国間の友好と今後のあらゆる取り決め事の窓口として、モンメイよりの特使である事を先に述べておく」
 ジュリアスがそう言うと一同は深く頷いて、オリヴィエの言葉を待った。

「それと……」
 オリヴィエは、ジュリアスの後を次いで話し出した。
「それと、同時にワタシは、第一騎士団にも所属することになった」
 微かな動揺のようなものが、一同の間に走る。
「モンメイ王族の者が、クゥアンの騎士の称号を得ることは、クゥアンに忠誠を誓うことでもあり、友好を深める為に意義あることと思う。その為に、ジュリアス王直属の第一騎士団に入り、騎士の称号を得るための努力をしたい」
 オリヴィエにとっては、堅苦しい城内に籠もっているよりは、この帰路の間に親しくなったオスカーや第一騎士団の連中との接点を繋ぎ、幼い頃からの憧れでもある騎士の称号を得たいだけだったが、それを外交的な事で、という目的にすり替えて、そう言った。
「なんとご立派なお心構えでございましょうな」
 一同が、大袈裟に頷き合うのに気を良くしたオリヴィエは、ここぞとばかりに微笑んだ。
「クゥアンの騎士の誉れについては、モンメイにも知れている。どこの国の騎士と比べてもその水準は高く、またそれを認定される元老院の厳格さは、 つとに有名……」
 後半部分は嘘である。クゥアンの騎士の称号は元老院がすると、先だってオスカーに聞いたばかりである。
「ワタシの場合も決して特別扱いはしないで貰いたい。第一騎士団としてのオリヴィエでいる時は、ワタシはそこに控える騎士長のオスカーの部下ということを、皆に了解しておいて貰いたい。よって 、彼の態度に、無礼と思われるところがあっても咎めなきよう……」
 そこまでオリヴィエが言った時、すぐ近くに座っていたツ・クゥアン卿の他数人の表情が険しくなった。その事を、気に留めながらオリヴィエは、もう一度、一同を見渡した。
「何分、モンメイより出たことない田舎者故、皆には教えを請う事もあるかと思うが、よろしく頼む」
 今度は、それまでの口調よりは、穏やかに微笑みながら言った。その微笑みが、どれだけの効果があるかはオリヴィエ自身が、よく知っている。
「いや、こちらこそ。モンメイは、鉱物資源に恵まれ、農耕技術には独自のものがあると聞きます故、ぜひお教え願いたい。私は主にそういう方面の管轄をしておりましてな」
「モンメイは古いお国柄、面白い伝承話があれば、ぜひ私に。後ほど落ち着かれたら私の管轄する書物庫をご案内致しましょう。クゥアンのみならず各地から集めた珍しい文献がありますので」
 すかさず言ったのは、末席の者たちである。自らを田舎者と卑下したことで親密感が増すはずというオリヴィエの読みは成功している。 他の者たちも口々に、オリヴィエに近づきになる為に言葉を交わそうとする。
「到着早々、焦るではない。オリヴィエ様は長旅で疲れているのだぞ」
 ツ・クゥアン卿が、上手い具合に収めたのを期に、オリヴィエは席を立った。
「お心使いありがとう。では、お言葉に甘えて、少し休ませて頂く。皆の事は、また改めてジュリアスに席を設けてもらおう。オスカー、私の部屋まで案内を頼む。まだよくわから ないので」
 オリヴィエは、そう言うと優雅に一同に礼をし、その場を去った。扉が閉まった後、オリヴィエは、後から同じように退出してきたオスカーの方を向きなおった。
「末席にいた人たちは割と気さくな感じだね、でも前の方にいた者たちは、少し嫌な感じがしたよ」
 いつものオリヴィエの口調にもどって、彼はそう言った。
「末席の方たちは、親戚筋とは言っても、直接、王家とは血の繋がりはない方で、先々代の王の弟君の妃の実家方であるとか、そういう感じの方たちですよ。中程の席に座っていた方は先代の王の従兄弟に当たられるお方です」
「ジュリアスと血の繋がりがないんなら、もっと野心的になってもいいんじゃない? 彼らにもし年頃の姫がいるのなら」
「あの方たちは、いずれもご立派な人格の方たちで、それだからこそ血の繋がりがないのに元老院にお入りになれた方たちなんです。ジュリアス様とのことで何かを画策されるような方ではないと思います」
「ふうん。で、あの一番前に座っていたツ・クゥアン卿とやらは?」
「ジュリアス様の伯父上にあたられる方で、元老院の中で一番、力をお持ちです」
「なるほど、でもジュリアスとはあまり似ていないね。金の髪や目の色はともかくとして。あ、でも目つきは似てたかな」
「ええ。ジュリアス様の父上とは、いわゆる腹違いですので」
「寵姫の子……というわけか。……ねぇ、オスカー。第一騎士団が、元老院から疎まれているって道中、他の騎士たちからも聞いたけれど本当?」
「疎まれているというのは大袈裟ですかね……。ジュリアス様の命で直接動くし、年齢的にも若い者が多く、遠乗りや狩りをご一緒することもあり、親しくして頂いてるので、王に対して馴れ馴れしすぎるとの声がたまに上がる程度で……」
「あのツ・クゥアン卿……とオスカーの間に何か問題でも?」
 先ほどの彼の表情を思いだしてオリヴィエは言った。
「驚いた……な。あの短い間にそこまで……。何か問題があるように感じましたか?」
 オスカーは頭を掻きながら、感心したようにオリヴィエを見た。
「オスカーの位置からは見えなかったろうけど、オスカーの名前が出た時、ちょっとね」
「俺が、ホゥヤンからこちらに来た頃の事、ツ・クゥアン卿には目を掛けて頂いたことがあったんですが、俺は騎士の称号を得るために必死で、なかなか意に添えないことがあって、それ 以来、あまり良い風には思われていなくて……」
 オスカーは、言いにくそうにそう話した。
「いろいろあるわけか……。でもまあ、とりあえず挨拶はしておいたし、ワタシの第一騎士団所属の事も話したし、さっそく明日からでもよろしく頼むよ……っと、こういう場合は、よろしくお願い致します、騎士長……だね」
 オリヴィエは、そう言って深々と頭を下げた。
「よし、わかった。ではさっそく明日から剣の稽古だ」
 辺りに誰もいないことを確認してから、オスカーは、照れながらそう言った。

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