これまた予定通り、俺はリュミエールをパプリックカーデンに誘った。夜風は涼しく、黄浦江を行き来する外国船の汽笛はロマンチック……舞台装置はバッチリだ、役者の準備もオッケー! ふらついているリュミエールの肩を俺はそっと抱いた。 「大丈夫か? すまん、お前の体にカクテルは合わなかったのかな」
「いいえ、わたくしこそ、最後の夜なのにこんな醜態を……。お酒の適量を間違えるなんて恥ずかしい事ですね……少しベンチに座って休んでもよいでしょうか」
とリュミエールは息をはずませながら言った。そうとう効いてるらしい。俺は近くのベンチにリュミエールを座らせると、カッコをつけて言った。「リュミエール……最後の夜にお前と二人きりになれて嬉しいぜ。上海での日々は楽しかった……お前に対する俺の想いは叶えられなかったけれど、逢えてよかった……」
「オスカー……わたくしも貴方と知り合えてよかった。わたくし貴方を投げ飛ばしたりしましたけれど、あの……決して嫌いというわけではなくって……」
「わかってるさ。お前は男で、俺も男だ。俺にとっては性別なんかどうでもいい事だったが、お前には大切な事だったんだな。いろいろと悪かった」
アルコールが入ってるせいで俺の芝居の臭さにも拍車がかかる。もう一押しだ。「謝らなくてはいけないのは、わたくしなんです。貴方の気持ちを弄ぶような事もしましたし……、あの、いつか約束した接吻……いまここで……」
リュミエールが全部言い切らないうちに、俺はリュミエールを抱き寄せた。リュミエールの体はガチガチになっている。俺はリュミエールを見つめ続けた。じっと、じっと、じっと。
大抵のものはこんな風にじっと見つめられると、目を剃らすか伏せる。そうなったら俺の勝ちだ。リュミエールも俺の視線に耐えきれず、目を伏せた。
(チャーンス!)
俺は隙アリとばかりリュミエールの顔に近づく。鼻と鼻がふれあうほどに。あと一インチの仲に今日こそ終止符を打つのだ! リュミエールの唇が俺の唇に微かにふれる。リュミエールは目を閉じたまま動かない。「愛している……」
俺は、今まで使ったことのないようなとっておきの声を出して囁くと、ついについについに、リュミエールに口づけをした。(おめでとう、俺!)
ここから一気に畳み掛けなければ。
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