「おっと……風が出てきたな……」
 風なんか初めから吹いているが、そんな事はどうでもいい、俺は思いつく限りの殺し文句を並べ立てると、最後にこう付け加えた。
「朝までお前と一緒にいたい……亜米利加行きの船が出るまで……せめて」
 リュミエールは黙って何も言わない。返事がないのはオッケーと言う事と俺の中ではそう決めてある。俺はリュミエールの肩を抱いたまま、パレスホテルにリュミエールを連れ込んだ。

「お前が嫌なら何もしない」
 と俺は言った。リュミエールの返事はない。返事のないのは、そう、オッケーって事だ!

「オスカー、すみませんがお水を頂けますか……」
 リュミエールの顔色が悪い。さきほどまでの赤味が消えてしまい蒼白だ。俺は水差しから水を汲みリュミエールに渡した。それをリュミエールは一気に飲み干すと、パタンとベッドの上に倒れ込んだ。これ以上のチャンスは無い……無いのだが、さすがに俺はリュミエールの具合が心配になってきた。
「おい、大丈夫か?」
 俺はリュミエールの背中をさすり、上着を脱がせるとベストとネクタイ、それにカーマベルトも取ってやった。少しは楽になったようだ。俺はこのまま一気に襲ってしまおうか、それとも苦しんでいるリュミエールの為に我慢すべきが悩んでいた。

「オスカー、最後の夜だったのに、こんなに酔ってしまって……もうお別れだと思うと、つい飲み過ぎてしまって……う……」
 リュミエールはいきなり起きあがり洗面室に駆け込んだ。
(もうお別れだと思うと、つい飲み過ぎてしまって)だって? じゃあリュミエールは俺との別れのせいでヤケ酒を飲んだって事か? そう言えば海風飯店でも老酒を何杯か飲んでいたような……。リュミエールは俺やオリヴィエと違って、飲み過ぎたり食べ過ぎたりは決してしないのに……。俺が考え込んでいるとリュミエールが洗面所からヨロヨロと出てきた。

「吐いたら随分楽になりました……見苦しいところをお見せしてしまってごめんなさい」
 リュミエールはそう言うとソファに倒れ込むように座った。
(正直に謝ろう、それしかない……)俺はリュミエールの方に向き直ると、まず頭を下げた。

「すまんっ」


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