作戦の第一段階は成功だ。俺は、ますます心が痛んだ。だが、もう今更後には引けない。ここで実は嘘だったと白状しても、半殺しにされるだろう。ならば、リュミエールと楽しんでから……。まずは、海風飯店で食事をした後、気の利いた音楽を聴かせる店でリュミエールを酔わす、そして風に当たろうとパブリックガーデンに行き、美しい黄浦江の夜景を見せながら、その気にさせて、口づけだ! その後は予約してあるパレスホテルに……。俺は口の端が緩みそうになるのを我慢しながらリュミエールを待った。

「お待たせしました、行きましょうか」
 着替えて来たリュミエールを見て、少しガッカリした。俺はてっきりリュミエールは一張羅の青い絹地のチャイナ服を着てくるのだと思っていたのだ。それがリュミエールの一番いい服だったし、あらたまって出掛ける時はいつも、着ていたから。でもリュミエールは、そのチャイナ服ではなくタキシードを着ている。
「どうしたんだ? タキシードなんか持ってなかったろ?」
「ええ、貸衣装なんです。今日のオークションに行くために借りてたもので」
「そうか……」
 タキシード姿のリュミエールはとても綺麗だ。だがしかし、いつもの青いチャイナ服の方が色っぽいのに〜。俺とリュミエールはオリヴィエに見送られて店を出て海風飯店に行った。俺は自分の立てた作戦をすっかり忘れて、料理に舌鼓を打った。リュミエールは始終優しげな顔をしている。
(こんなとこで満足していてはいかん、お楽しみはこれからだ!)

 今日の海風飯店の会計はリュミエールが持つと言って聞かない、これも計算通りだ。そこで俺は予定通り、こう言った。
「ありがとう、ご馳走様。じゃ、次は俺に奢らせてくれないか? 行きつけのバーがあるんだ。なかなかいいジャズを聴かせるんだ、いつもその店で故郷を思い出して感慨にふけっていたんだが、もうその必要もなくなったな。亜米利加に戻ればジャズなんか街角の子どもだってペットを吹いているしな……」
 ちょっと寂しげに俯いて言うとリュミエールは案の定、断らずについてきた。裏バンドのあるそのジャズバーに入ると、俺はマスターに「いつもの」と頼んだ。そうだ、いつものだ。俺のはちょっと辛口だが軽めのカクテル、連れのは、甘くて口当たりがよくって、思い切り足腰に来るキツーイカクテルだ!!

「わたくし、普段はワインくらいしか頂きませんが、カクテルも美味しいんですね」
「だろう? もう一杯どうだ?」
「そうですか、ではもう一杯だけ……」

 なんだかんだと言って、結局、俺はそのカクテルを五杯リュミエールに飲ませた。既にリュミエールの白い肌はフラミンゴのような色になっている。


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