■カフェ・セ・レレガンス・ドゥ・ロム・モデルンの真実

 朝から酷い雨降りの日だった。昼過ぎになって、ようやく少しましになったものの、カフェのテーブルを通りに出せるほどではない。オリヴィエは、客が来ないので、 暇を持て余し、新聞紙で鶴を折っているほどである。奥の厨房でも同じらしく、この店のマスターであるアランとその女房ミレーヌが、 いい機会だからと銀器を磨きながら、何やら楽しげに話している。

 二人とも三十代半ば。アランは、どちらかと言うと陽気なタイプでない。陰のあるちょっとイイ男という雰囲気だ。反対にミレーヌは明るい。背も高く、酒ヤケしたようなハスキーヴォイスのゴージャスな美女。実際に店を取り仕切っているのはミレーヌの方で、アランの方は黙々と厨房で、美味しい珈琲を煎れることに専念している……といった風情だった。だが決して、ミレーヌがアランを尻に敷いているという感じではない。オリヴィエは一目逢った時から、なんとなくこの夫婦が気に入っていた。
『なんだかねー、いかにも仏蘭西人のオトナのカップルって雰囲気なんだよね〜』と、リュミエールにもそう説明した。
 
 オリヴィエは、前のカフェをクビになった翌日、仕事を探してウロウロしていた時に、舌を噛みそうな長い店名の書かれた看板の横に、『ギャルソン募集』の張り紙を見つけたのだった。時間は午後二時半。ちょうど、降り出した小雨のせいもあり、店内は閑散としていた。

next

 水夢骨董堂TOP 読みましたメール