その日の朝早く、俺はドアを叩く音で起こされた。
「オスカー、こんな早くに済まないな……人目につかないウチにと思って」
 堯サンは辺りを見回すと俺の部屋に滑り込んだ。
「なんだ?」
「あの人捜しの件な。忘れてくれ」
「見つかったのか?」
「いいや、私に仕事を依頼してきた日本人の探偵が殺されたんだ。私もヤバイかも知れない」
「どういうことだ?」
「昨日の朝、私は例の行方不明の男が城内にいるらしいと情報を掴んだんで、日本人の探偵に会いに行ったんだ。俺は午前中に片づけなきゃいけない仕事があったし、向こうも、依頼主に報告したいと言ったんで、とりあえず日が暮れてから一緒に城内まで行ってみる事になってたんでな。で、夕方に迎えに行ってみれば……」
「殺されていたのか。だが、そのせいで殺されたわけではないかも知れない」
「そうかも知れない。けれど、行方が判ったからお役御免とばかりに殺された可能性もある。私の予測通りに軍絡みだとしたら、この事件そのものをもみ消す為に殺したんだと思う。それに依頼主の家を出てから、どうも後を付けられてる気がしたんで、朝まで四馬路で遊んでるフリをしてたんだ。私とその日本人の探偵とはよく一緒に仕事をするんで、すぐに私の身元も割れるだろうが」
「そうか……わかった、俺も注意しとくよ、堯サンも気を付けてな」
「ああ、万が一を考えて、当分の間、私と街やビル内で会っても知らん顔してろよ」
 堯サンはそう言うと、またこっそりと部屋を出ていった。

 その日の夜、俺が遅くまで書き物をして起きていると上の階の堯サンの部屋から物音がした。
「堯サン、まだ起きているのか、物音がするって事は生きてる証拠だな」
 俺はホッとしてまた書き物の続きに戻った。椅子がガタンと倒れたような音がした後、しばらくして何も聞こえなくなったことに胸騒ぎを覚えて、屋上で夜風に当たるフリをして階上にあがった。
 堯サンの部屋のドアが半開きになっているのを見て不審に思い、慌てて駆け寄り、中を覗いた。床に散らばる書類や倒れた椅子の向こうに伏している堯サンの姿が見えた。

「堯サン!」
 堯サンを抱き起こすとその胸にナイフが突き刺さっていて、彼は既に事切れた後だった。堯サンの空の財布が側に落ちていたが、仕事関係のファイルが閉じてある棚が一番酷く荒らされている事を俺は見逃しはしなかった。それもファイルの背に書かれた日付の新しいものを中心に。

「強盗に見せかけたつもりだろうが、そうはいかないぜ……」
 俺は床に転がっていた茶の缶のひとつを取り上げた。【極上茉莉花茶】と書かれたその缶を開けると例の行方不明の男の写真と城内の住所のメモ書きが見つかった。

「堯サン、コイツのせいでこんな事になったのか?」
 俺は写真の男に向かって毒づいた。



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