「……というワケなんだ」

 俺は話し終えると、すっかり短くなってしまった煙草を渋々消した。
「で、アンタも、狙われてるの?」
 オリヴィエは心配そうに尋ねた。
「ハッキリとはわからん、ただなんとなく事務所の辺りを見張ってるヤツがいるような気がするんだ。堯サンが殺されていると届け出たのは俺だし、俺が堯サンとご同業だということはバレバレだしな。俺との繋がりがあると判ってお前たちに被害が及んじゃマズイと思ってとりあえずこんなカッコしてきた」
「オスカー、貴方はこれからどうするのですか?」
「城内に行く。堯サンのメモにそれらしい場所が書いてあってな。俺はそのタチキってヤツに会って事の真相を聞きたいんだ。堯サンの予想通り、タチキが日本軍の軍人なら何故、隠れてるのか? タチキのせいて二人の人間が殺された、そして俺も狙われているかも知れない。ワケも判らずに殺されるのは嫌だからな」
「タチキってヤツがすごい悪いヤツだったらどうするんだよ、やめなよオスカー。ねぇ……ワタシたち日本租界で育っただろ……日本軍人の事はいろいろ見てきたけど、あんましさぁ……連中、よくわかんないよ、無茶苦茶卑怯モノかと思えば、妙に潔いトコもあるし」

「予想通り、この事件の大元の依頼主が日本軍なら、首を突っ込むよりも工部局にでも行って、事情を説明し保護して貰ったほうがいいのではないですか? 貴方はただ堯さんに少し頼まれただけで何も知ってはいないのだと、説明すれば……」
「日本軍の敵は工部局じゃないからな、そうした方が得策かも知れん……けれど堯サンは事情もよく判らずに殺されたままだ。上海って街は、とばっちりでよく人が殺される……俺に雇とわれていたというだけで中國人の女中は屋敷もろとも焼き殺された。毎日、誰かが、流れ弾に当たって死んでる……。俺は嫌なんだよ、そういうの。殺されるのにも理由が欲しいんだ。納得して殺されたいんだ」

 オリヴィエとリュミエールが俺がそう言うと、黙り込んでしまった。俺は上着の前をポンポンと叩いた。そこには守護神モーゼル(拳銃のこと)が入っている。
「素手ではリュミエールにかなわないけどな、銃の扱いはそこそこなんだぜ」
 俺は、おどけながらチラリと上着を持ち上げて銃を見せて立ち上がった。
「明日……店に来て下さいますよね」
 リュミエールが俺をジッと見つめて言った。
「もちろんさ……」
 俺はリュミエールの側に近づいた。その肩に手を置き、リュミエールの頬に口づけた。このシチュエィションでは、いくらリュミエールだって投げ飛ばすワケにはいかないだろう。ずるいぞ、俺。
 そのまま唇も奪ってしまいたかったが、引き際が肝心だ。俺はわざとらしいと思ったが陽気な声で「チャオ!」と言い、投げキッスをしながら店を出た。



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